第31話 観察と、一瞬で制圧

 正門を囲っているのは十人。


 最新式といえど、持っている鎧の数が十台だけということは考えにくいため、この十人が普段から同じメンバーで任務に就いている『チーム』なのだろう。


 全員が剣を構えて、飛鳥に向かって突撃する。


 圧倒的な遠距離攻撃手段を持っていることはすでに確認済み。


 この距離であれば、間合いの概念など飛鳥にとってあってないようなもの。


 そんな彼を相手するならば、接近して動きに制限を加えることが……。


「遠距離武器しか使わん奴が近接が弱いっていうのは、RPGのバランスの話だ。アクションゲームをやればわかるけど、強い奴は強いぞ」


 次々とナイフを手に出現させて、兵隊たちに攻撃を加えていく。


 ただ、兵隊たちは、持っている剣ではじいたり、回避したり、少しずつ飛鳥に近づいていく。


 槍水飛鳥という強者といえど、この装備と人数なら、接近できている。


((……いけるか?))


 その事実に希望を見出したのか、スマホで隠した目元が少し揺らいで……。


「やっぱり70層のモンスターくらいの遠距離攻撃で合わせたら、対応してくるな。ただ余裕がありそうじゃない。本当に70層でギリギリか」


 そううまい話があるわけではない。ということが分かった。


「チッ、実験のつもりか!」

「使い慣れてるやつがせっかく大人数で攻め込んできたんだ。観察しとかないともったいないからな」

「バカにするな!」

「お前らの立場も都合も知らん。一瞬で蹂躙されないだけありがたいと思え」

「めちゃくちゃな……」

「格上相手の経験値が足りないお前らが悪い」


 どんな感じかなー。といった緩い雰囲気で、次々とナイフを投げる。


 時々、後ろに下がって大技の準備をしている奴はあえて見逃しており、どうやら本当に『観察』のために戦っているようだ。


「チッ、舐めんじゃねえ!」

「おりゃあああああっ!」


 全力で剣を振る。

 斬撃の形で固まった魔力の刃が飛鳥に向かって……。


「えーと……」


 二人が放ったそれを、手でつかんだ。

 刃は霧散することなく、そのままの状態を保っている。


「んー。あの攻撃の構成は……こうなってんのね。はいはい……思ったより新しい発見はなかったな」


 そのまま、放ってきたやつに向けて投げ返す。


 明らかに剣で放ったそれよりも圧倒的な勢いで、斬撃が飛んでいく。


「なっ……くそおっ!」

「おらあああっ!」


 剣を振って、投げ返された斬撃を弾こうとして……どちらも、剣のほうが切断された。


「なっ……」

「こ、この剣の攻撃だぞ。なぜあいつが投げ返したほうが強いんだよ!」

「フォームチェックが疎かになってるぞ。そんな振り方で放った攻撃が強いわけあるか」

「この技は70層のモンスターにも通用する。弱いはずがない!」

「でもボスには通用しないだろ。攻撃力が全然足りないからな」

「ぐっ……」


 飛鳥は圧倒的に強い。


 そのうえで、『制御』ができる。


 モンスターの各階層の『難易度』がどれくらいなのかを、経験で再現することすらできる。


 だからこそ、特に何の準備もなく、『観察』を可能とする。


 今、彼らが立っているのは、ただの、飛鳥の都合だ。


「さてと、そろそろ片付けるか。こんなところで暴れていると、研究材料の搬入もめんどくさいし」

「ぐっ……あっ」


 投げ……て終わっている。


 全員の腰にナイフが刺さっており、そこから麻痺属性魔法が起動し、全員の動きを止めている。


「ぜ、ぜんぜん、みえな……」

「お前らが見えるように投げる必要がないからな」


 彼らが認識できないほどの速度でナイフを投げることは造作もない。


 ただ、それをするかしないかは飛鳥の判断でしかない。


 飛鳥が、地面に伏すことになっても戦うか。伏さないという選択肢をあきらめるか。そのどちらかを迫った時点で。


 彼らの結末は、地面に倒れることだけである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る