第5話 大した情報はなさそう。
「あ、飛鳥さん。お帰りなさい」
家に帰ると、リビングにコンビニ店員の制服を着た望海が待っていた。
「ただいま。で、八重は? どうせ自白剤は初手で盛るだろうし、尋問はもう終わってるだろ」
「分かったのは、柚希ちゃんが『公立の探索科高校への編入命令を拒否したから』という理由は分かったけど、それ以上のことは……」
「それだけか。となると……作戦としては相当『下の下』だな。あてがわれた人材も大したものじゃなさそうだ」
「……八重さんが持ち帰ってきた三人組。探索者としては、三人ともAランクの中で上位の才能の持ち主ですけど」
「んー……」
望海に言われて、飛鳥はリビングのテーブルに置かれた、ノンアルのワインが入ったスキットルを手にしつつ……。
「暗部に求められる技術っていうのは、一般的に防ぐのは難しい。というより、一般人が普通は意識しないことが何なのかを前提に作戦を組み立てるからだ」
「間違いない」
「で、俺みたいなSランク探索者を相手にしたときの『最適な立ち回り方』なんて誰も知らないんだから、そりゃ簡単に潰れるだろ」
「まぁ、納得しておきますよ」
望海はため息をついた。
「で、八重さんですが……とらえた三人組をどこかに持っていきました」
「どこかにねぇ……」
望海も知らないという事だろう。
「あ、そろそろ、私はコンビニに戻りますね」
「ああ、ご苦労さん」
家の向かい側にあるコンビニだが、飛鳥にとってものすごく便利な反面、利用者が少ないのでスタッフもあまりいない。
平日の昼間のため、いたとしても二人か三人だ。
望海は仕事が凄く出来る子なので、いるのといないのではとても変わる。
……まぁ、正直に言えば、あのコンビニは『アカイロマート』と言って、『赤色グループ』が運営している。
コンビニは上がマンションになっているし、そこには赤色グループの関係者が多く入っているのだ。
望海は『まとめ役』であり、彼女が電話を一本かけるだけで、マンションから人を引っ張り出すことくらいは簡単だが……まあ、ここで飛鳥が何かを言っても関係のない事である。
「ただいま帰りました」
「あ、八重。お帰り。特に事故はなかった?」
「あの三人は探索者ならAランク上位ということもあって、回収のために五回ほど襲撃を受けましたが、そちらもまとめて持っていきました」
「そんな簡単に捕縛できるもんなの?」
「私がいたときとマニュアルが変わってないそうで」
「馬鹿じゃねえの?」
「私もそう思いますが、まあ、これからは……洗脳ウイルスの除去と、社会復帰のための研修が待っているでしょう」
「なるほど」
スキットルのノンアルワインを飲み始めた飛鳥。
「それにしても、『公立の探索科高校に通え』という命令を無視しただけで、事故を装った殺害とは……どう思いますか?」
「行儀は良いと思うよ」
「行儀良いですか? これが?」
「柚希にちょっとした『護衛』はつけてるが、家に帰るまでで襲われた様子もないしな。何らかの手順を踏みたい。社会的に影響力のある状態にしたいみたいだ」
「でしょうね」
「いろいろ制約があるらしい。ただ始末するだけなら、そんなことは考える必要はないからな。まだ行儀が良い方だろ」
「……いずれにしても行儀が良いと表現するのはズレていると思いますが……ところで護衛というのは?」
「めっちゃちっちゃい麻痺ナイフ。無色透明で、それが知る限りの感知をすり抜けるやつが、柚希の周りを飛び続けてる」
「器用ですね」
一体どういう性質なのか。
「ていうか、よくやるけどな。そういうのは」
「例えば?」
「八重の肺の中に千個は仕込んでるぞ」
八重の体がブルっと震えた。
「……飛鳥様」
「なんだ?」
「人の体の中に、勝手に何かを仕込むのは行儀が悪いですよ」
「俺の言いたいことが分かってくれたみたいで何よりだ」
飛鳥はそれ以上は何も言わずに、ソファに座ってテレビを見ながら、ワインを飲み始めた。
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