第46話 飛鳥のメンタルどうなってんのマジで

「ねえ柚希」

「む? 才華さん。どうしたんですか?」

「さっき、飛鳥の家に行ったんだけど、飛鳥がリビングのソファで寝てたのよ」

「まぁ、飛鳥さんは大体、寝室かリビングですね」

「テレビをつけたら、飛鳥が日本全体に貢献すべきだって意見がすっごく流れてたのよ」

「最近多いですよね」

「それを見た飛鳥の表情が全然変わらないのよ。普通、あれほど言われてたら変わるもんじゃないの?」


 才華はSランクに昇格し、赤色グループが作ったアプリで配信を行っている。


 そのため、魔法省が出している総合探索者アプリである『ドリームボード』では閲覧できない。


 それをもっとほかでも出していくべきだと掲示板で書かれることは多いが、才華からすれば『楽しくないから嫌』で拒否するだけだ。


 赤色グループは、コメントも掲示板も、すべて本名。

 匿名にするシステムが存在しない上に、すでに性癖を暴露するのに躊躇がない連中が多いため、明け透けである。


 それ相応にマニュアルも用意されているのか、『ふざけかた』がわかっているものが多く、空気がとてもいい。


 だから楽しい。

 ……たまに、余計なコメントが飛んできて、それに対してどこかの部長がやってきて『お前あとで私の部屋に来いよ』と公開処刑されているときもあるが。


「うーん……多分ですけど、このまま無視していても別に問題ないと思ってるんじゃないですかね?」

「どういうこと?」

「飛鳥さんがいろんなものを持ち帰ったことで赤色グループは発展しました。当然、これまでにも、赤色グループはほかの企業と連携すべきだという意見はありましたが、お母さんは全部無視しました」

「無視?」

「そうです。意思を表明することもありません。何かしらの交渉もしません。ただただ、相手を無視し続けています」

「そうかぁ」

「そして、『それで問題がなかった』という経験をしてるんですよ」

「確かに、昔と今でそこまで状況は変わらないもんね」


 飛鳥の力によって、赤色グループは多大な発展を遂げている。


 その状況は、今も昔も変わらない。


 そして、赤色グループに対して要求するのか、飛鳥に対して要求するのかの違いでしかないのだ。


 飛鳥からすれば、『別にほかに出さなくても、何も問題はなかっただろ』で済む話である。


「それに、批判コメントは確かに多いですけど、より多くの『いいね』をもらえる批判コメントは何だろうって考えている間、探索者としては絶対に強くなれませんからね」

「そりゃそうよね」

「探索者として、何なら悪党としても、本気も全力も出せない人に、飛鳥さんは絶対に負けないと確信してるんですよ。だから、怖くないんです」

「惨めな話になってきた」

「赤色グループは規模が多くて、関わっている人数も多いですから、当然、飛鳥さんを慕っている人も多いです。その時点で、自己肯定感なんて満たされてますからね」


 少ない人数で、飛鳥が持ち帰ったものをさばききるのは不可能である。


 いろいろなルートから、少なくはない人数がグループに関わり始めているのだ。


 関わる人数は多い上に、飛鳥もグループのメンバーにはファンサービスを時折やるので、かなり慕われている。


 しかも、慕っている人が多いということがわかる上に、飛鳥のことで盛り上がっている掲示板があったとして、全員が本名でコメントするのだ。


 これで自己肯定感が満たされないなら、それはそれでどうかしている。


「なんで飛鳥さんが赤色グループを贔屓するのかは私も知りませんけど、まぁ、そんなもんですよ」

「それに対して、グループの関係者が揺らがないのもすごいわ」

「子供は影響されやすいですけど、赤色学園と赤色グループの本社は近いですし、すでにこの辺りは『企業城下町』といって過言じゃないですからね。そういう意味で守りやすいです」

「まあ現実はそうよね」

「それに、赤色グループが作ったアプリは、関係者しか使えないSNSが幅広くそろってますし、番組も組まれてますよ」

「へぇ……」

「赤色グループの中で強い探索者をゲストで何人か呼んで話してもらったり、みたいな企画はそれ相応に多いですね」

「私、呼ばれたことないんだけど」

「結構先まで番組の計画が埋まってて、ぽっと出の人を入れる余白は基本ないんですよ」

「強い人。多すぎない?」

「赤色学園で授業を受けていて思いませんか? これは強くなる人多そうだなって」

「思うわ」

「それが答えです」


 ダンジョンは多種多様。


 なかには、『道場型ダンジョン』も存在する。


 そうしたダンジョンのラスボスを倒すと、そこまで才能がない人でも、時間をかければ超人にできるような指導方法がわかるのだ。


「あと、飛鳥さんが世間に対して大きく動かない理由として、『最強の後出しじゃんけん』を使えるからですね」

「どういうこと?」

「例えば、何か計画を立てたときに、必要なものは当然出てきますよね」

「そうね」

「そしたら、お母さんは飛鳥さんに頼んで、必要なものが出てきそうなダンジョンのラスボスを蹴散らします」

「なるほど」

「そして圧倒的なものを手に入れて持って帰ってきます。オーバースペックですが、周囲からの攻撃なんて、それがあれば怖くないんです」

「反則すぎる……」


 グーとグーは、当然『あいこ』だ。


 しかし、世間は、どちらのグーの威力が強いかで競い合っている。


 ただし、ルールがじゃんけんであることは間違いない。


 だったら、ちょこっとだけ、パーを出せば相手に勝てるし効率的なのだが、あえて絶対的なパーで叩き潰すのだ。


「それで、赤色グループを非難するのにコストを使いすぎて、つぶれていった組織は多いですよ」

「お、おぉ」

「そして有能な人とか、赤色グループと相性がよさそうな人がいたら全部引っこ抜きます」

「残りは?」

「生活保護を勧めます」

「組織としては草の根も残らないじゃん」

「お母さんだって人間ですからね。我慢強い人ではありますが、別に怒らないわけではないので」

「……」


 割と容赦がない。


 どうして『容赦のない手段が取れるのか』というと、草の根も残らないほどボロボロにするため、敵が消滅するからだ。


 敵が残っていたら報復が待っているだろうが、もう相手にそんな力は残らないので、気にしない。


「頼りになるけどモヤっとするわね」

「まぁ、言いたいことはわかりますよ」


 強く、そして関係者を守ることを重要視している。


 頼りにはなるが、それでいいのか。と思わなくもない。


 贅沢な悩みと言われればそれまでだが。

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