第14話【才華SIDE】 51層配信。『転移トラップ』
「今回から、エネモンナ洞窟の51層に挑戦していきます」
六車高校の制服を着た才華が、配信魔法の端末である白い球に向かっていった。
『頑張ってください!』
『応援してます!』
『表情にちょっと疲れが……大丈夫?』
コメント欄には応援や心配のコメントが流れている。
公式記録で日本初の、十六歳のSランク冒険者。
その『本格的な51層探索』が始まるということで、注目度は高い。
ただ、ここ最近、才華はいろんなダンジョンの50層のボスを討伐していた。
言い換えれば、ここ最近は、ずっと様々なダンジョンに潜り続けて、そして成功してきたのだ。
……成功『してしまった』のほうが正しいかもしれないが。
魔法省が作った探索者御用達のアプリ『ドリームボード』は情報ツールとしてもすぐれており、検索すれば様々な情報を確認できる。
挑んできたダンジョンに関しても、多種多様だが、情報はたくさんあった。
しかし、情報があるからと言って初見でクリアできるかと言われれば、そういうものではない。
それを成し遂げたのは、紛れもなく、才華が確かな集中力の持ち主であることに他ならない。
集中力が高いことは、圧倒的な学習能力と、動きの最適化が行われる。
しかし、脳を酷使することになるのだ。
十六歳のうちに様々な成功を積み重ねろと田中から要求され、疲れていないわけがない。
「大丈夫です。休息はしっかりとっています」
……これを聞いて、『大丈夫』と思うのか、『そんなわけがない』と思うのか。それによって、実力がわかるものだ。
50層のボスに関しては配信しており、その戦闘においては正攻法がわかっているため、楽に倒せているように見える。
しかし、ダンジョンは、そういう場所ではないのだ。
「では、探索を始めましょう」
才華は剣を構えて、通路を歩いていく。
このエネモンナ洞窟は、岩でできた内部と、出現するモンスターがゴブリン系統に固まっていることもあり、『基本形』といえるもの。
言い換えれば、集中力を高くして、基本を忠実に鍛えている者にとっては、戦いやすい部類になる。
宝箱もほかのダンジョンと比べて多く、生配信で盛り上がりを出しやすい。
「……っ」
ゴブリンと遭遇。
ただ、普通のゴブリンではない。
明らかに鉄の色ではない。ダンジョン特有の鉱石を使って鎧を身にまとっている。
さらに、明らかに業物を思わせる二本の剣。
『やっぱ50を超えると装備もすごいな』
『ゴブリンなのに眼光も鋭い』
その威圧感は確かなものだ。
「ふぅ……しっ!」
才華は剣を構えて飛び出すと、ゴブリンに急接近。
そのまま、首に剣を振りぬいて通り過ぎる。
ゴブリンの首が地面に落ちると、『死亡』したようで、体が塵になって消えた。
魔石が残っている。
『才華ちゃん。強い!』
『全然動きが見えなかった!』
『一撃かよ。すっごいな』
才華は汗をぬぐいながら、コメントを確認する。
そして、思った。
まだ、戦えると。
50層のギガントゴブリンに関しては、勝てるとは正直思っていなかった。
だが、51層の、普通に出てくるモンスターなら、勝てる。
「よし……」
ゴブリンの魔石を拾ってカバンに入れると、進み始めた。
……そこからも、ゴブリンが出てきては、一刀両断する。
集中して、無駄な動きをそぎ落として、鮮やかに、一刀で。
確かな鍛錬の結果だ。
コメント欄も、若く、美しい少女が、一撃で強いモンスターを倒していくのに呑まれて、肯定的なものが多くなる。
この段階で、田中に対するコメントはない。
というより、田中自身が、『まだ六車高校にはSランクを輩出した経験がない。これを乗り越えるために、多種多様な50層のボスの情報を集めてきた』と公表したからだ。
その結果が、才華の50層ボスラッシュなのだと。
そのため、今の才華の戦いは、彼女だけのもの……になるほど、彼女は、自分の立場を作る才能はない。
「あ、宝箱」
通路を歩いていると部屋があり、そこには一つの宝箱があった。
『宝箱だ!』
『エネモンナ洞窟は宝箱が多いからなぁ』
『何が入ってるんだろ』
『早く開けよう』
『初の宝箱だ。楽しみ』
興味がわかないものなどいない。
何が入っているのか。
早く開けて。
そんなコメントがあふれてきた。
「……」
才華はカバンから、虫眼鏡型のアイテムを取り出す。
「罠判定は……ダメ。これだと、罠なのか、そうでないのかわからない」
宝箱には罠が仕掛けられていることがあり、それによって、重症……を超えて死亡する例も少なくない。
罠が設置されているのかを判断するための魔法やアイテムも開発されているが、力が足りなければわからない。
『えー』
『せっかくだし開けようよ』
『最初だし大丈夫だって』
『ここで日和ってたら先がつらいぞ!』
『勇気出して!』
……『せっかく』とか、『日和ってたら先がつらい』とか、『勇気』とか。
それならば、まだ、才華の心意気次第だ。
だが、『最初だし大丈夫』など、何の根拠があってそんなことが言えるのか。
「……」
才華はためらう。
理由は単純。
51層に挑むと決めて、準備したのだから、『本来なら通用する性能を持っているはず』のアイテムなのだ。
それが通用しない。
可能性は二択。
51層の中でも珍しいアイテムが入っているから、この虫眼鏡で判別できない。
51層の中でも危険な罠が仕掛けられているから、この虫眼鏡で判別できない。
どちらかだ。
そして、魔法省がホームページで記す宝箱に関しての扱いのガイドラインでは、『わからない物には手を出さない』ことだ。
探索者は命を懸けてダンジョンに潜るが、自殺志願者ではなく、ギャンブラーでもない。
生配信だからこそ、『こういう場面』で開けることが盛り上がることは才華だって重々承知だ。
しかし、開けられない。
だが、世論……いや、彼女の行動の決定権を持つ人間は、『開けない立場』を許さない。
『才華さん。開けましょう』
スマホから、田中の声が聞こえてきた。
「先生……」
『これほど盛り上がっていますし。それに大丈夫です。エネモンナ洞窟の51層について少しネットで調べましたが、才華さんが対処できない罠はありません』
「……」
少しネットで調べた。
要するに、大丈夫というのは、田中の感覚に過ぎず……飛鳥の情報ではない。
『先生も言ってるんだし、開けよう』
『あんまり焦らすなよ~』
コメント欄が煽ってくる。
「……っ!」
才華は箱を開けた。
次の瞬間、才華の下に魔法陣が出現し、その姿は消えた。
★
「なっ……て、転移トラップ……がっ!」
自分の状況を認識したのも束の間。
才華の腹を、水晶の剣が貫いていた。
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