第13話 才華には、取り戻してほしいものがある。

 諸星才華の50層ボス攻略は続いた。


 これによる探索者たちへの影響は確かなものとなっている。


 自分たちが苦労して手に入れたものや、英雄とすら言える誰かがソロ討伐した証が、いとも簡単に奪われているような、そんな思いを抱えている。


 飛鳥がUSBメモリに入れたボスの情報は、そのほとんどが、国内で有数の探索者コミュニティや、その関連企業が必死になって隠している情報だ。


 探索者であろうとそうでなかろうと、情報戦を制する者が勝者となるのは間違いない。


 ただ、中には、『一見、どこの探索者たちとも関係ない』と思える情報もある。


 これに関しては、『世の中に顔を出せない、裏にいる悪の実力者』もいるもので、そうした人間から強みを奪うためのものだ。


 そうした状況の場合、飛鳥が公表すると面倒な展開になることもあるが、あの教師、田中が頑張って情報を発信しているため、恨まれるとするなら田中になる。


 一体、どれほどの仕込みをしておけば、一気にここまで、事態を加速させることができるのか。


 一部の実力者……そう、槍水飛鳥という存在を知る一部の実力者は、『腐臭』に気が付いて静観の構えをとっている。


 沈黙は金。雄弁は銀。

 何か言いたいことがあったとしても、一応は黙っておくべきだ。


 世の中、だれも責任の取り方など知らない。

 万人が納得する責任の取り方などわからない。

 だからこそ、発言には責任を伴う。などというのは幻想だ。


 しかし、一部のものは、発言には『立場』を伴い、何かあったらそれが奪われることを理解している。


 本当の強者が何も言わず、一つの情報にすがるだけの半端者が、怒りをためる。


「……飛鳥様。最近、パソコンで何をしているのですか?」

「情報操作」

「はぁ……どのような?」


 自宅で、飛鳥はパソコンを開いて、あれこれやっていた。


「今の諸星才華の動きは、彼女の栄光ではなく、田中の研究の発表会になっている。みたいな感じだ」

「端的に言えば、今回の話の主役を、才華から教師に変えている。ということですね」

「まあそうなるかな」

「どうしてそのようなことを?」

「こうしておけば、ここから先、才華が何か失敗したとき、その矛先があの教師に向かうからな」

「いえ、なぜそんなことをするのかの話です。飛鳥様が、才華をフォローするような、守るように動くような動機を知らないので」

「……ああ、そっちね」


 飛鳥はため息をついた。


「……才華は、ダンジョンに潜るってなってから、ずっと配信してるんだよ」

「そうですか」

「最初のほうは、そりゃ弱いさ。才能があるって言っても、ノウハウが……具体的に言えば、経験することですぐに判断できることが、最初はできないんだからな」

「当然ですね」

「ただ、とても、楽しそうに探索してたんだよ。今の柚希みたいな……というとちょっとバカすぎるが、まあ雰囲気は似たようなもんだ」

「そう……ですか」

「そこまで歯切れ悪くする必要ないだろ」


 内心であきれながらも、飛鳥は続ける。


「本当に、明るく、楽しそうに探索しててさ、そのアーカイブも残ってるし、見れるんだが……」


 何かを思い出すように、ソファに背を預けて……。


「そのアーカイブのリストがさ、どこから始めても楽しい、『冒険の書』が並んでるみたいで、すごいって思ったのさ」


 人間、変化するものだ。


 しかし、取り戻してほしいものだってある。


 だからこそ、何かあったとき、『環境が悪いんだ』と才華には自覚してもらう。


 何の『立場』もなく、ただ、笑顔でダンジョンの中を駆け回っていた、あのころのように。

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