第28話 『赤色魔法研究所』に搬入。襲撃発生。

 迷宮貴族の五つ星の家である松垣家の次期当主である松垣隆吾と、彼が装着していた『リアリスター』の確保。


 装着者の質に対して言いたいことはあるが、その装備に関しては、紛れもなく高い性能を誇る。


 才華や柚希が想定しているように、『ダンジョンから取れる装備』として、性能がもっと高いアイテムはいくらでも存在する上に、飛鳥の判断で世の中に出せないとしているアイテムもある。


 しかし、人工的に生み出した装備の中でかなりの性能であることは間違いない。


 襲われたのが才華と柚希であったことに加えて、二人に関しては直々に飛鳥と接触しているため『仕込み』があるため何とでもなるが、この装備で赤色グループの全員が無事で済むかとなれば、話は別だ。


 誘拐が成功していれば、その後、飛鳥によって恐ろしいことが行われた可能性も十分あるが、それはもしもの話である。


「うーん……解析結果、どう思います?」

「器用貧乏……というほど性能は低くないけど、人によってはすごいことになるかもなぁ」


 研究員……の格好をした望海のぞみの質問に対して、家からすっ飛んできた飛鳥は端的な感想を述べる。


 回収された装甲だが、解析するための部屋に運ばれて、飛鳥がダンジョンから持ち帰ってきた分析のマジックアイテムを使用中。


 飛鳥は『研究』のための道具に対して遠慮しないため、かなり深い階層のアイテムも投入されている。


 これによって、『わからない』ということはない。


 そのため、広く出回っている『装備』と比べてどうなのかという話になる。


 隆吾が使っていたリアリスターは、『認識阻害』の力が強く、人間社会で調子に乗った使い方をしても影響が出ないようにアプリが組み込まれている。


 いざという時のための逃走手段がこれでもかと搭載されており、自動で起動するアプリの性能もかなりのものだ。


 今はそれらのアプリは封印のマジックアイテムで止めているため、鎧だけでも機能するアプリであっても停止している。


「人によっては、ですか」

「もっと言うと、このリアリスターという器に完全に適した『戦闘アプリ』に特化すれば、紛れもなく、60層のモンスター相手でも戦える。これは間違いない」

「ということは……」

「まぁ、60層まで潜れる程度のモンキーモデルが、隆吾を始めとした戦うのに特化しない連中に配られてるってことだろうな。もっと強い最新式があるはずだ」

「最新式?」

「このリアリスターは、誰でも60層まで潜れる程度のスペックがあるが、それ以上に強化しようがない。外部パーツの受け入れも難しい構造だから、そもそも、もっといい素材を使った最新式があるはず」

「となると、松垣隆吾のような政治屋ではなく、本当の『戦闘員』は、それ相応のものを着ているということですね」

「それくらいじゃないと暗躍のしようがないからな。裏といっても正面戦闘はそれ相応に多いし、強い奴も多い」


 隆吾が使っていたリアリスターが、迷宮貴族の技術レベルの中でどの程度なのかは、正直に言って飛鳥にもわからない。


 いずれにせよ、その最新式が戦闘に特化した場合、才華と柚希なら危なかった。ということは、飛鳥としては『考えていない』のだが。


「では、才華さんや柚希さんに、また何か別の仕込みが必要なのでは?」

「いやぁ……大丈夫だと思うけどなぁ」

「まだ何か仕込んでますね。聞きませんけど」

「そうしてくれ」

「ただ、これをナイフ一本で制圧できたというのもよくわかりませんけどね。いったいどんな素材でできたものを渡したんですか?」

「そんなに深くはない階層のアイテムだったと思うけどなぁ。裏のオークションに流したら、そこらへんの国を二つくらい買えそうな金額になったけど」

「飛鳥さんの感性ってどうなってるんですか?」


 国を二つ買える。ということを何だと思っているのだろうか。


「ていうかそれ、誰が買ったんです?」

「アメリカの誰か」

「そう……ですか」

「まあそれはともかく、この装備に関しては、ほとんど底が見えたな。製法に関してもいうほど難しくない。というか、ちょっと『古さ』もあるし……隆吾だったか。多分、勝手に持ち出したんじゃないかな」

「勝手に持ち出した?」

「本来なら最新式の装備を受け取れる立場のはずだが、勝手に持っていける限界がこれってことだと思う」

「なるほどぉ」

「ただ、隆吾のほうは自白剤をどれだけ突っ込んでも、『どれだけ豪華な暮らしをしてきたか』についてしか喋らないからなぁ。正直そっちは、こっちとしてはどうでもいいけど、リアリスターだけは回収に来るはずだ」

「となると、襲撃を警戒したほうがいいですね。質の高い研究設備がそろっているのが『此処』だと、広く知れ渡ってますから」

「まあ、そういうことに……」


 そこまで考えた時だった。


「飛鳥さん! 研究所の正門を、リアリスターに似た装備をした兵隊たちが囲っています!」


 連絡係がやってきた。


「じゃあ行きますか……」

「あまり乗り気じゃなさそうですね」

「隆吾を返すから帰ってくれないかなぁ。って思ってる」

「ふざけるなって言われますよ」

「俺も言われると思うよ。じゃあ、行くか」


 内心、ため息をついている飛鳥であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る