第23話 51層ボス。一撃で終わった。

「……さて、困った。ここからどうしよう」


 エネモンナ洞窟51層ボス、『炎弾鬼えんだんきボルガノン』。


 真っ赤な肌をした大型のゴブリンであり、周囲に炎の弾丸を生成し、それを高速で射出してくるモンスターである。


 貫通と炎属性を同時に行う攻撃であり、しかもその弾丸は精製から射出までが早く、多い。


 それに貫かれない防御力か、ゴブリンの認識から外れ続けるための圧倒的な速度が必要になる。


「……この剣、強すぎでしょ。まさか一撃で終わるとは想像だにしなかったんだけど」


 まあ、ボスの情報をいくら語ろうが、あまり関係ない。

 もう倒してしまったので。


『倒すの早すぎぃ』

『いくら何でも一撃って』

『剣も確かに強いけど、一度近づくためにはあの弾幕を超える必要があるからなぁ』『おっぱいおっぱい♪』

『ぶるぶる揺れてた!』

『うおおおおおっ! うおおおおおっ!』


 コメント欄に流れている。


 ちなみに、この配信だが、魔法省が出した総合ツールのドリームボードではなく、赤色グループが独自に開発したものである。


 赤色学園や赤色大学、そのほか、赤色グループの関係者は、全員がこの専用の配信を見ることができるのだ。


 ちなみに、匿名システムはなく、全員が実名である。

 コメントを見つけることさえできれば、誰が言ったのかは一目瞭然なのだ。


「半分くらい胸の話ばっかりじゃん! 自重しろよ中学生!」


 そう、ふざけているのは中等部の子たちである。

 まあ、高等部でも、調子のいい奴らはふざけているが。


「はぁ、こんなに明け透けなコメント欄、初めて見たわ」


 似たようなのばかりだったら日本は終わりである。


「ていうか、このボスを倒すのに時間がかかるかもしれないから、私、予定入れてないんだけど、どうしよっかな」

『生徒会長の胸を揉みに行けばいいんですよ』

「柚希いいいいいいいいいいいいっ!」


 ばっちり名前が『赤石柚希』のため、本人で間違いない。


「私は胸を揉むためにこの学校に来たんじゃなくて、ダンジョンに挑むために通ってるのよ。わかってんのか!」

『別に揉みに来てもかまいませんよ?』

「アンタも悪乗りすんな!」


 有栖もコメント欄に来ちゃった。


「はぁ、ていうか、なんでこの学校、こんなに胸の話をしたがるの?」

『まぁ、基本、柚希が大好きだからじゃね?』

『だよなぁ。飛鳥さんの家に確かメイドいたよな。揉み方を教わりましたってなんかの時に言ってた気がする』

「八重さんが引き金かよ!」

『いえ、もとからそういう子なので、私だけが原因ではないかと』

「八重さん来ちゃった!」


 八重もこの騒ぎに参加。


『大体の人が見ていますよ』

「え、じゃあ、飛鳥は」

『飛鳥様は布団で寝てます』

「昼の二時になにしてんだアイツは!」

『予定がなければ大体ベッドでゴロゴロしてますから』

「……」

『……あと、これからも配信をするならば、これくらい騒がしいコメント欄になることを覚悟したほうがいいかと』

「地獄じゃん」

『その通り』

『その通りってメイドさんから言われたあああっ!』

『当然だよなぁ!』

『八重さんって何カップだっけ?』

『Fだったはず!』

『フィイイイイイイイイイイイバアアアアアアアアアアアアアアッ!』


 収拾がつかなくなってきた。


「はぁ、とにかく! 今日の配信はこれで終わり! またどこかでするからね!」

『こんなバカ騒ぎになってんのにまたすんのか』

『思ったより才能があるな』

『しかもツッコミ側』

『ええっ! もっとイチャイチャ話したいですうううっ!』


 強制的に配信終了。


「……はぁ。いろんな配信のアーカイブを見る限り、まじめに挑戦してる人に対してはまじめにアドバイスしたりしてるけど、ちょっとでも余裕がありそうだと思ったらすぐバカ騒ぎになるのよねぇ。いったい何がどうなるとこんな文化になるのやら」


 バカ騒ぎが苦手な人の場合は配信しないという選択肢もあるし、配信中に『そういうのが苦手です』とはっきり言えば、それに対してある程度落ち着きを見せるのだ。


 ここまでくると、もはやそういう文化である。


「……まあ、ここまでおバカな人ばっかりだからこその、いいこともあるみたいだけど」


 柚希から聞いた話だが。


 探索科学校とその卒業生において、『自殺者がいない』のは、赤色学園だけである。


 何なら、多くの探索科学校では、探索者の死亡件数において、ダンジョンにおける事故よりも、自殺者のほうが多いのだ。


 誰かとつながれない。

 誰も頼れない。

 そういう環境に身を置かれると、精神は一気に摩耗する。


 だが、ここなら、おバカな仲間がたくさんいる。


「まあ、あんまりふざけてたらブロックするけどね」


 それはそれ。これはこれである。


 ただ、『今回のおバカレベル』に対して、ブロックする気がないというのであれば、もはや言ったところで大した意味のない宣言ではある。

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