第25話 麻痺属性弾
「うーん。結局、52層のボスも一撃で倒せちゃったんだけど」
「そうですね。結局コメント欄も胸の話ばっかりでした」
才華と柚希が、ダンジョンから出てきて話している。
柚希が持っているレジ袋の中には、コンビニで買ったであろうおにぎりがたくさん入っており、話題がなくなったら食べるのだろう。
「マジであれ、どうにかならないの?」
「赤色グループはみんなの心を一つにできそうな概念に対してかなり寛容なので、胸の話でみんなの心が一つになるとわかればあまり制限しませんよ」
「あの環境になることを運営側が望んでいるってこと?」
「胸の話以上にみんなの心が一つになる何かがあればそちらをとりますけど、まあ今のところありませんね」
「うーん」
赤色グループの基本方針は、『みんな仲良く』で間違いない。
そして、その方針に対してあれこれ言おうとは思わない。
思わないのだが……なぜ胸の話になるのやら。
「でもそういう話をすると、だれかが幸せにならない気がするけど」
「望海さんとかそうですよね」
「遠慮とかないんか」
「線引きがあるだけです。そこを超えない限り遠慮も躊躇もありませんよ」
「うーん……」
思うところはある。
確かに、コメント欄は胸の話で盛り上がるものの、『揉む』という行動の話になる場合、有栖のような『揉ませていると公言している人物』に話を持っていくのだ。
その際、才華の胸を揉むという話には絶対にならない。
それはそれとしてだ。
「……貧乳の人を貧乳といじるのは、どうなの?」
「みんなで騒げるなら何でもいいんですよ。赤色グループが作ってるスマホのアプリには、ドリームボードと大体似たような機能がそろってますけど、掲示板で望海さんの名前を検索したら、結構なファンが付いています」
「そうなんだ」
「まあ、比較対象として千秋先生という話題にしやすい人がいるということもありますが」
「千秋先生が、話題にしやすい人?」
「そうですよ。私も実年齢を聞いたときはびっくりしました」
「へぇ……」
麦野千秋。
才華のクラスの担任であり、見た目は大学を出たばかりと思わせるほど若々しい。
「あ、そういえば……」
「赤色グループのアプリだと、みんな実年齢も載ってますが、千秋先生だけは特例で年齢が隠れてます」
「なんでわかった?」
「ポケットに手を入れたので多分スマホかなと」
「間違いないわね」
アプリでわかるんじゃね? と思った才華は浅はかだったようだ。
「不思議なことはたくさんあるんですよ……む?」
柚希が何かに気が付いた。
そして、頭をひょいっと下げる。
すると、そこを弾丸が通り過ぎた。
麻痺属性弾だったのか、地面に着弾すると、バチっと電流がはじけて消えていく。
「意外と物騒な町ねぇ」
才華もフッと頭を動かすと、顔があった場所を弾丸が通り過ぎて行った。
「迷宮貴族はうっとうしいですね。政府の陰に隠れてるような奴ですから、警察の目があっても、いろんなところに入り込みますから」
「そうよねぇ」
才華が顔を上げて、とあるビルの上を見る。
「あんなセキュリティが凄そうな高層ビルの上で、よくもまぁあれほど準備ができるものだと思うわ」
「まあ、多分あそこ以外にもどこかに隠れてますよ」
「そうよねぇ」
「あと、実は避ける必要はありませんよ」
「そうなの?」
「はい」
ビルの上以外から、弾丸が来る。
しかし、柚希に当たるよりも前に、何かに当たった。
麻痺属性そのものが無力化されたのか、電気が弾けることもなく、塵となって消えていく。
「あっ……何か、防御魔法でもかけられてるのかしら」
「私も多分そんな感じだと思ってますよ。ただ……ちょっと、飛鳥さんの腐臭がするので、多分何かやってるんだろうなぁ。とは思いますが」
「……そういわれてみると、私もそんな気がしてきた」
人のことを何だと思っているのか。
「ただ、こうなった以上、いろんなところにいるこっちの暗部が動いてるので、すぐにつかまると思いますよ」
「ならいいけど」
結論を言えば。
迷宮貴族に倫理感がないならば、飛鳥は理不尽である。
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