第26話 迷宮貴族の『兵士』の装備

 遠距離で麻痺属性を当てようとして、うまくいかない。


 それそのものは、多いわけではなくとも、全く遭遇しないわけではないだろう。


 なんせ、迷宮貴族が誘拐しようとする場合、その多くは探索者として素質があるものばかりだ。


 素質があるということは、普段から警戒心がそれ相応に高いことも多い。


 麻痺属性弾は、当たれば相手が動けなくなるため、便利ではある。


 しかし、そうした便利さを潰す『防御策』もまた、めずらしくない。


「む? 麻痺属性弾が飛んでこなくなりましたね」

「撃ってきてた人がいなくなったのか、それとも仲間が捕まって、残りが撤退したのか……」


 才華と柚希を狙っていた麻痺属性弾。


 だが、それがピタリと止んだ。


「クククッ、そりゃ専用に作られた弾丸だぜ? お前たちが思ってるよりコストがたけぇのさ」

「「!」」


 裏路地から、ラフな格好をした男が出てきた。

 弾丸が飛んでこない理由を話しているので、迷宮貴族の関係者であることは間違いない。


「……一体、誰ですか?」

「名乗るわけねえだろ。どうせ捕まえて、二度と会うこともねえ奴に」

「……相当な自信ね」

「そりゃそうさ。迷宮貴族ってのは、お前たちが思ってるより、『良いもの』を持ってるんだぜ?」


 スマホを取り出しながら、ヘラヘラしている男。


「スマホ……それでいったい何を?」

「こうするのさ」


 何かのアプリを起動する男。


 次の瞬間、彼の体を、特殊な金属を思わせる色合いの鎧が覆っていく。

 ガチャガチャと、カチカチと、様々なパーツが出現しては、彼についていく。


「な、なんですか!?」

「パワードスーツとか、そういうやつ?」

「クククッ……」


 最後に、持っているスマホを、目元を覆うように、頭部パーツのくぼみに接続した。


 スマホを目元に接続すると同時に、その手に剣が出現する。


「この装備の名前は『リアリスター』……迷宮貴族にいる兵士の中でも、優れた成果を出したものにしか与えられないパワードスーツってわけよ」

「リアリスター?」

「リアリストをもとにした造語ですかね? より強調するという意味合いでいいと思います」


 才華は剣を抜いて、柚希は刀を抜いた。


「それにしても、『リアリスト』……『現実主義者』というか、『現実を見る人』が語源だとは思いますが……」

「あ、なんだ?」

「あ、いえ……」


 柚希は、特に何事もなさそうな雰囲気だが、そのパワードスーツの『スマホを目元を覆うように接続する』というコンセプトに対して、思うところはあるようで。


「私は迷宮貴族の皆さんは嫌いですが、その装備を作った人の皮肉のセンスは結構好きですよ」

「何を言ってやがる!」


 男が剣を手に、柚希達に襲い掛かる。


「さてと、皮肉についてはまあいいとして……」


 才華は『天晶剣ブリュンヒルデ』で、男の斬撃を受け止める。


「これでもSランクなのよね。あんまり舐めないでくれる?」


 戦闘、開始。

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