第10話 警戒心と想像力がない奴が教師やるなボケ

『ギガントゴブリン戦で、才華さんの戦術が大変評価されていますが、それについてコメントをお願いします』

『大技の攻略法に関しまして、あれは、エネモンナ洞窟に挑んできた六車高校の卒業生たちのデータをもとに、私が分析したものです』


 テレビに映るのは、記者会見。

 気分がよさそうにしゃべっているのは、あの教師だ。


「……」

「私も諸星才華のギガントゴブリン戦は確認しましたが、あの大技の攻略の流れ……飛鳥様の入れ知恵ですか?」

「……なんでそう思う?」

「当日の飛鳥様の予定と、諸星才華の配信開始時間。実際の戦いで、『あらかじめ聞いていたとは思えず、直前で聞いて取り入れた動き』で、『完璧な戦術』を披露していることに加えて……」

「加えて?」

「まあ、私の直感や嗅覚というより、飛鳥様の腐臭が強いので」

「俺ってそんな腐ったにおいがするのか?」

「ええ……わかっていると思いますが、物理的な話ではなく人間性の話ですよ」

「まあ、それはそれで、どうでもいいか」


 飛鳥はノンアルワインを飲みこんで、ため息をついた。


「で、八重はどう思う?」

「多分、煽ったというか、レスバで勝ちましたね。あの教師に」

「あの程度の切り替えしで惨めに思うくらいなら、最初から人のことを馬鹿にするなと思うが……まあ、煽ったのは事実だ」

「おそらく、『諸星才華のSランク昇格』に加えて、自分も何か功績が欲しいと思ったのでは?」


 要するに、さんざん煽られて惨めになったから、『何か欲しい』と思いつつ。

 その情報を持ってきたのが中卒探索者の飛鳥だったため、『自分のものにしよう』と考えた。


 それが八重の推測である。


「あまりにも完璧な戦術ですが、行ってしまえば『知識』ですし。本人が20層までしか潜れない程度の探索者であったとしても問題ありません」

「……ここまでって、『前提』だよな」

「ええ、私があの教師に対して何を思うかについて、ここまでは『前提』です」

「で、どう思う?」

「想像力と警戒心が不足しているかと」

「それって人生経験でどうにかするタイプのやつだろ。仮にも年上に向かってよくもまぁ……」


 あまりにもストレートな物言いに、飛鳥はあきれるしかない。


「正直に言って、モンスターを相手に、命のやり取りをする子供たちを導けるとは思えません。一つの学校の特待生を相手なら、なおさらです」

「……なんでそう思うんだ?」

「当時の予定を考えるならば、飛鳥様の行動もまた、本質的に実力は関係ありません。多分煽り方もそれに関するものでしょう」


 なんで中卒がこんな階層に来れるんだ!

 お前と同じで連れてきてもらっただけに決まってるだろ。

 中卒がこんな階層で戦えるわけがない!

 戦うだけが探索じゃないし、モンスターから見えないようになる道具もあるだろ。


 こんな軽い切り替えしであの教師は黙り込んだわけだ。


「……俺ってそんなに腐臭がきついか? なんで俺のその時のセリフがわかるん?」

「私と初対面のころをお忘れですか? 同じセリフですよ?」

「あ、あー、そうか」


 飛鳥はうなずいた。


「その時の私も思いましたが、『この男の裏には誰がいるんだ?』と思いましたね」

「裏?」

「そう、実際にその階層まで誰かを連れてくることができて、『実力が足りない者に、絶対に安心な隠れることができるアイテム』を渡すというのは、相当な実力が必要です」

「まぁ、仮に50層のモンスターから狙われないようにするなら、50層で手に入るアイテムだと完璧じゃないからな」

「そのアイテムを用意できるというだけで、『裏』に何がいるのかと、普通の人なら考えるでしょう」


 強者がそばにいるなら、深いところに来ることだけなら難しくはない。


 そして、ダンジョンからは様々なアイテムが出てくるため、隠れるためのアイテムも珍しくはない。


「あの教師自身、強者に連れられてあの階層まで行っていたのは事実。飛鳥様のことを馬鹿にするかどうかはともかく、『こいつも強者に連れられてここまで来たとして、その強者はいったい誰だ?』と思う必要があります」

「だろうな」

「助言した飛鳥様自身が中卒冒険者だからと、その情報を自分の成果のように話すのは、その裏にいる奴の恨みを買う行為だと考えられないのが、本当に、想像力が足りません」

「まぁ、本当に自分で導き出した可能性を否定できないし、実際に裏に誰かいたとしても『悔しい』で留まるかもしれんが……」

「それを含めても、人から教わったものを自分のものとして教えるのは悪手です。というより、自分で考えていない以上、そこに行きつくための情報収集も絶対に甘くなり、ボロが出るはず」


 さんざんな酷評だ。


「しかも……ソロボーナスで手に入る『大樹の苗』に、これからも価値があると思うのが、滑稽で仕方がない」

「まあ、そうだな。知識は知識だ。誰だってマネできる。これまでエネモンナ洞窟に入っていなかった『他のSランク探索者』が、大量に押し寄せて大樹の苗を分捕っていく可能性もあるからな」


 Sランク探索者になったからと言って、今すぐギガントゴブリンを楽に倒せるかといわれると、そういうわけでもない。


 やはりボスはボス。

 折り返し地点ということもあって非常に重要なモンスターであり、しっかり強いのだ。


 そこに、完璧な戦術の情報が加わったら、ギガントゴブリンが乱獲される可能性がある。


 そうなれば、大樹の苗が大量に市場に出てくる。


 そうなれば、それを使って得られるポーションの価値も下がるのだ。


 そこにたどり着かないのが、想像力が足りなさすぎるのである。


「……想像力。か」


 飛鳥は、どこか遠くを見るような目で、つぶやいた。

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