第28話 新しい仲間(1/9)
世間では、来週のゴールデンウィークが近く、期待に胸膨らませる物が多い中。
一馬のクラスメートである
「アーリア先生。私に、宜しければ魔法を教授しては頂けないでしょうか?」
「ふぇ? 魔法使いになりたいの、清水さん?」
「はい。ふふっ、禀で良いですよ。アーリア先生」
照れくさそうに禀は、はにかみながら答えた。
先日の一件以来、学校内で生徒、教員に限らずアーリアのファンは増えた。
ほとんどの生徒は目撃すらしなかったが、禀と真司はアーリアが窓から身を投げ出す姿に、悲鳴さえあげていた。
颯爽とためらいなく友の為に駆けつけ、堂々と意見を言う彼女に、魅せられた者は多い。
禀もその1人で、是非アーリアに魔法を教えて欲しいと願っていた。
「魔法なぁ……俺は遠慮しとくで。んな事より地図書いてたいんや」
「生粋のマッパーだもんね、真司」
兄が本職の測量士なこともあり、真司はダンジョンにおける地図製作者、マッパースタッフを目指している。
彼の作業机や教室の机は資料でドッサリで、教師陣も根負けするほど地図に情熱を傾けていた。
「そ、その、はっきり言っちゃうと。人間の文化とか生態自体が、ちょっともうアーリアのやり方と相性が悪いの。成人してから、銃とかの機械に頼った方が便利かも……?」
「他の事をするほうが有意義、と?」
「ダンジョン用の機械も日進月歩やさかい。まぁそうやろなぁ」
「理由があっても、ダメでしょうか……?」
「禀」
一馬は一言だけ静かな声で、何かを確認するかのように禀の名前を呼んだ。
禀はチラチラと真司の方を見たが、彼は得意げに下手なウインクで返すだけで、彼女は少し笑ってしまった。
「ん。良いよ、そろそろそっちの助手……と言うか、工房の管理権限を受け継いでくれる人も、居てくれると助かると思ってたし、色々配信を手伝ってくれるなら協力するよ」
「え、配信に出て良いんですか!?」
「助手で良いなら。……予定を少し前倒しして、ゴールデンウィーク前に整理を終わらせちゃおう。カズマくん、シルバーさん達と訓練追加ね」
「げぇ!? またデスマーチ!?」
「しょうが無いでしょー、シルバーさんゴールデンウィークは、コラボですっごく忙しいんだから」
「うんまあ、そうだよね。聖さんにもお話しなきゃだねぇー……」
「バックアップは任せい。バイト代出してくれるならやるで、クマ吉。センセ」
「えっとね。じゃあ、真司さんにも手伝って貰おうかな。公開訓練と
「シミ、退治……?」
現代っ子である3人は、昆虫である紙魚に思い至らず、何がどこに染みて居るんだろうかと、勘違いして頭を傾げていた。
◇◇◇
土曜。朝から鍛錬に汗を流していた、ストロング・ボックスの面々とアーリアたちは、真司と聖、佐久間プロが荷台で持ってきた、飲料水に飛びついていた。
「ほれ、大量に持ってきたで!!」
「ぶはぁ! 生き返るぅ!!」
「ごっつあんです!!」
「シルバー君本当にタフねえ。まだやってる……」
「今が一番、伸びる頃でしょうからね」
「ふぅっ!! ふぅうっ、はっ!!」
「へぇ……!」
以前に比べて力任せの打ち込みは減り、むしろ一見粗暴さが増え、手首のスナップを利かせたガラの悪い打ち込みが多くなった。
しかし、どこか自由で伸びやかな連撃に、アーリアは何度か足を引かされたり、自ら痛そうな一撃を回避するようになっていた。
「ふぅ……、ふっ……!」
「おっ……!?」
「おぉおっ……!!」
とうとうアーリアが完全に「動かされた」
予想に反して繰り出された回し蹴りに、アーリアの足が、初めて上段回し蹴りで交差したのである。
「きゃっ!?」
爆発的な衝撃に地下訓練場は、瞑想を行っていた禀が座って居られないほど揺れ動いた。
「うっ、おぉ、おぁあっっ!!?」
嵐か何かに吹き飛ばされるように、身体を勢いよく吹き飛ばされる。
それでもシルバーは壁際で受け身を取って、以前のように壁に激突する事は無かった。
「くっそ、なんつー蹴りだっ……!」
「うん。とうとう足を使わされたね。こんな短気間でとは、正直思わなかったよ」
「抜かせ、……まだやるぞ」
「ダメ、もう片足痺れて動けないでしょ。良く揉んだ後は、カズマくんと座禅交代」
「チッ……ありがとう、ございました」
「うん。ありがとうございました。お昼済ませたら、今度は追いかけっこやろうか」
「追いかけっこ?」
「視界運動の訓練だよ。半眼はできてるけど、その先をね」
アーリアは、佐久間プロに視線を送って頷いた。
彼女の仕草に、今日の昼食は軽めに済まそうと彼は考えた。
「あ、足がしびれたぁ……!」
「頑張りすぎ、ちゃんと自分の限界は見極めないと、ダメだよぉー?」
ピーンと伸ばされた足を、アーリアにトストス指先で治療されて、一馬はあっという間に歩けるようになった。
「こっちも、そろそろかな……」
「何が、アーリア?」
「えっと、ちょっと変身してみて欲しいんだけど、良いかな?」
「え、分かったよ。コレも着てるしちょうど良いね」
一馬が袖を通しているのは、近代的素材で製作された、少し古いデザインの鎧だった。
右肩から袖が無く、前掛けの長いデザインであり、左足も剥き出しの大胆なデザインで、変身しても破ける物は無い。
アーリアがデザインし、聖が各方面を駆けずり回って製作された新装備である。
「どう、着心地は、一馬くん?」
「良いですねコレ、気に入りました聖さん。……あれ、喋れてる?」
「やっぱり。一日一度目の変身でなら、会話できるようになったね」
「毎日10分瞑想させたのって、コレのため?」
「うん。そろそろ何かできるかもしれないよ」
「何かって?」
「何かだよ。君はモンスターの腕と、足を持ってるんだからね。みんな姿勢も良くなったし、強くなった。君たちはもっと強くなるよ」
「はい、姉御!!」
「ヘヘっ、もっと厳しめでもいいぐらいでさぁ!」
ストロング・ボックスの彼らは、威勢よく訓練に励み、以前より格段に清々しくなった。
だが1人、最後までアーリアに謝れなかった彼は、薄暗い顔つきをして彼女を見つめていた。
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