第7話 ストロング・ボックス (3/6)

【魔法もエルフも】例の配信考察スレ【あるんだよ】


 0621 名無し@エルフさんファン


 お前ら! ストボスから生雑談でエルフさん出るってよ!?

【公式】総長・佐久間プロとエルフさん陣営雑談・実戦訓練。URL→http………


 0622 名無し@エルフさんファン

 マ?


 0623 名無し@エルフさんファン

 対応早いな! 流石、佐久間プロ。現役時代より速くない?


 0624 名無し@エルフさんファン

 お、あの子も出んのか。まあ総長のとこなら、フェイク無いだろうな。


 0625 名無し@エルフさんファン

 総長殿も佐久間プロも、そういうのマジで速攻でツブすもんな……


 0626 名無し@エルフさんファン

 業界的にも先の失敗を覆したいんだろうな。

 あの人未成年だけはまだ早いって、意見出してた1人だし


 0627 名無し@エルフさんファン

 なんにせよ、モンスターソロ討伐なんざ、数えるほどしか例がねえんだ。フェイク無しで手並み見れるなら、それ以上の事はねえや


 0628 名無し@エルフさんファン

 講義なんて開いてる場合じゃねえ!!

(民俗学ガチ勢)


 0629 名無し@エルフさんファン

 全裸待機基本ッスよね!!

(アイスランド国籍持ち)


 0630 名無し@エルフさんファン

 ガチャの妖精である、エルフ様を賛美せよ!!

(TDDガチ勢)



◇◇◇◇



 たっぷりと膨れたお腹をさすって、アーリアは階段を降りきった。一馬は不思議そうに周囲を見渡している。


「嗅ぎ分けられるのかな、カズマさん?」


「ここ、何か張り巡らされてる……?」


「ええ。本来なら、未成年組の探索成功を祝って、大々的にこの訓練施設を、お披露目するつもりだったのですが……」


 都内地下魔法試作訓練場(仮)。ダンジョン庁が用意していた仮設訓練施設だ。


 近年戦闘力が激化する探索者に備え、祇園の拝み屋に試作を依頼した。由緒正しい施設である。


「すみません……」


「なに。私など最初の探索では、尻を3つに分けられかけて逃げました。あってしまう事ですよ」


「あのね。懐かしい音がするよ。術式の主軸は京?」


「左様です。配信はここの休憩室で行います。銀二……シルバー君たちが、準備を進めています」


 佐久間プロが休憩室を開けると、部屋には横断幕や木刀、赤い特攻服やバイクのホイール。大きな狼の額が割れた頭蓋骨、写真などが、飾り付けられている最中だった。


「あんま強めのモン飾っと、片付けやら、コイツら落ち着かねえと思って、少し抑え気味だが、いいか?」


「十分です。私のこれも置いておきましょう」


 佐久間プロはSTRONG・BOXと血のような文字で書かれた横断幕に、長巻を預けた。


「えへへ。良いねこれ、強い思いを感じるよ」


「俺達の旗だ。先々代から受け継いだ、な」


 シルバーは佐久間プロを親指で指さした。少し気恥しそうに、彼はバーコードのような頭を軽く叩いた。


宝の詰まった箱ストロング・ボックス。好き?」


「あん? ああ、金庫じゃ無くてそういう意味か。生命賭けてるぜ、いつでも」


「この写真……」


「あ、赤い特攻服風鎧は若い頃の私です。端っこで鼻水垂らしてるのが、銀二ですよ」


「おまっ、それ言うなっていつも言ってんだろ、先々代っ……!」


 一馬が見つめている写真の日付は10年前。今よりもダンジョンの入り口が新しく。全員厳つい顔つきで傷だらけだが、どこか誇らしそうに見えた。


「調整終わりやした! 銀二さん!」


「あいよ。いいか、ありがとうは言うな、頭下げるのも無しだ。助かったで通せ」


「え? えっと、どうしてぇ……?」


「今はそう居ねえが、昔っから気に入らねえんだよ。スパチャ払って頭下げさせる輩。それが世間的に正しくてもな。俺達の流儀だ」


「君、良い子だね?」


「あん? 俺さんは永遠の不良。反逆者だよ」


 軽くメイクチェックを行い、首にかけるマイクを装着し、ネームプレートの席へと着席した。


 一馬は深呼吸を繰り返していた。あまり注目を集め無かったが、配信活動の経験はある。


 だが、ストロング・ボックスのような、トップクランの大舞台に立つのは、初体験。


 率直に言って、まだしっかり喋れる自信を持てない。


 そっと、アーリアが手を握ってきた。


「き、緊張しちゃうね。人って書いて良い?」


「良いよ。僕も書きたい」


「けっ、家のチャンネルは、そこまでマトモじゃねえっつーの。じゃ、始めるぜ」


 シルバーが手を振ると、クランのスタッフが同じように応じて、パソコンのマウスをクリック。


 オープニングのシルバー自身が歌う。見事なデスボイスの一曲が披露され、配信が始まった。


「おぉ〜……TDDの公式生放送みたい」


「おまっ、開幕……!?」


〝総長押忍! ってのっけからwww〟

〝押忍!! かたやぶりwww〟


〝押忍! エルフさんかたやぶりやなwww〟

〝これはwww〟


〝ヒュー! 開幕俺達の総長殿が冷や汗かくなんて、久々だぜwww〟

〝ナイスエルフさんwww〟


〝押忍! エルフさんマジマイペースwww


「押忍! というわけで、今日はダンジョン探索の第一人者、佐藤アーリアさんと、先日ダンジョンに挑んだ織田一馬くんにお越し頂いてます!」


「え、えっと、あ、アーリアだよ。よろしくね?」


「は、はじめまして、織田、です……」


「おう、舎弟ども、息災か?」


〝いぃよろしくぅー!! 〟

〝押忍! エルフさん改め、アーリアの姉御! 〟

〝総長も佐久間プロも、押忍! 元気ッス! 〟


「早速ですが参りましょう。ちまたでは、佐藤アーリアさんを『エルフ』と呼ばれているようですが、その事について、何かありますでしょうか?」


「エルフ?」


「そうだぞ。耳長えしどっからどう見ても、よく見るエルフまんまじゃねえか?」


「アーリアは、別にエルフさんじゃ無いよ?」


 衝撃的な一言で、彼らの雑談生放送は、開幕を告げる事になった。

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