第24話 横柄な奴ら(5/7)

 ヒートアップして行く口論に、渡辺隊長は比較的冷静に手を叩いて、待ったをかけた。


「貴女もそういうこと言うけど、貴女も威圧してること言ってる、でしょ!?」


〝?〟

〝!? 〟

〝??? 〟


〝また何言い始めてんだコイツは……〟


〝お前らがさせてるの間違いだろ?〟

〝コイツもおかしいんか? 〟


「でも、ガツガツガツガツ言われて、本当に怯えてるんです!」


「いやいや、怯えてようが、……貴女も発言、行動、どういうもので、じゃあ湯本さんから受け止めてたの? 反省してるの?」


〝はん……せい……? 〟


〝いや、内容をどうこうは言って無いよな? 〟

〝怒鳴られるだけの事、女がしたんか? 〟


〝怯えてようがwww〟

〝ありえねーwww〟


〝この発言、この時点だけで警察案件では? 〟


「貴女がそう言う態度を取ったと言うことは、反省して無いって事でしょ?」


「それは、はい、対応を改めると……」


〝いや、対応を改めるって、主張しとるやん〟

〝コイツもおかしいな〟


〝これ、議論のすり替え、それも正当性のない、強引な押し付けでしかねえよな? 〟


〝怒鳴るなっつてっるだけなのに、自分たちで追い詰めて耐えられなくなった奴、批判してるだけだもんな〟


〝つか、ここまで追い込んで、かわいそうって少しも思わねえ関係性って……〟


〝リーダーこれ、せめて誤解でもなんでも良いが、勤務時間、ミス云々で揉めた事自体を、まず謝罪するべきだよな〟


〝ナメてるんでしょ、年齢上だから〟


〝彼女からしたら、突然怒鳴られた以外の何物でも無いわけだもんな〟


〝いい年こいてるから、もうまともに働きたくねえんだろ。だからって、ダンジョンの目の前でするこっちゃねえけど〟


〝もうこの子に押し付けるのが常習化してるんだな。じゃなけりゃこんな言葉選べんもん〟


「こんな狭い所で働いてる。気持ちよく仕事したい。それは変わらないんだって、聖さんだって思うでしょ?」


「それは、もちろん」


「確かに先日居なかったし、どうゆうふうに、あなたが受け取ったか分からないけど、でも仕事は仕事だって言う、基本的な事を思いだして貰いたい」


〝いや、被害者が暴行してしまう恐慌状態ギリギリまで追い詰めたって、本当に分かってんのか、コイツは? 〟


〝気持ちよく仕事したいwww〟


〝下手人が隣に居るから、下手に出れないんじゃないの? どう考えても湯本とか言うの話聞かない態度だし〟


〝あぁ、なるほど……〟


〝それだ! ミスなすりつけて、強引に終わらせる気なんやな! クソが〟


〝今後も一緒に仕事しなけりゃならんわけだもんな、うっわ鳥肌立ったwww〟


〝だからって、明確な被害者に責任押し付けるかぁ? バッカじゃねえのwww〟


〝自動車事故で、9対1の責任を逆に押し付けてるようなもんだな、アホかwww〟


「それはそれだって、受け止めなさい。止めるよ俺は、私だってね、他の、ねえ、頭にカンカン来ることもあるよ! ねぇ湯本さん!?」


「……分かった、もう言わない、一切、言わないから、もう言わないから俺は」


〝うっわ……〟

〝とうとう投げたwww〟


〝ここまで引っ掻き回しといて、投げやがったwww〟


〝言うだけ言って、楽しむだけ楽しんで面倒くさくなりやがったな……〟


〝もうこれフェイクだろ、じゃなけりゃ不憫過ぎるわ〟


〝他責思考の極みだな〟


〝最後まで態度悪っ、もう拗ねたガキやんwww〟


〝玩具が壊れるまで、振り回してるガキだな〟


「言って貰える事は、ありがたいと思うよ? 今日は今日で終わり!!」


 聖はカチンと来つつ、握りしめた手の甲を見た。


 アーリアがあんな小さな手で強く握って、祈ってくれた場所。


 さいは既に投げられている。自分でもう世の中に大胆に、投げつけている。


 友に背中を押され、戦い切ると、覚悟を決めた。


「…………お待ち、下さい」


〝お? 〟

〝なんだ? 〟


〝うぉ……画面が揺れる!? 〟


 聖は深呼吸をゆっくり繰り返すと、立てかけてあったスマホを持ち上げて、少し確認するように操作した。


「あ~……申し訳ありません。会社内でのみ使う証拠だけに済ませるつもりだったのですが、どうやら操作を間違えて、生配信してしまったようです」


「…………なに?」


〝wwwwww〟

〝草〟


〝大草原不可避www〟

〝白々しいwww〟


〝そっかー操作ミスかぁー、失言して謝らないヤツも居るし、それは仕方ないなーwww〟


〝流れが変わったな〟


「すみませんね。ネットの皆様に今のやり取りが、すべて筒抜けになってしまったようです」


「…………はぁ!? 何勝手な事してくれてんの!?」


「この際です。はっきりさせましょうか。仕事だから、ちゃんとしたコミュニケーションを行う必要が、当然ございますよね?」


「横で現場を目撃していた布施さんが「あれはねえわ」と言うほど。謝罪している人間が、酷く声を荒げなければならないほど、横柄に何度も恫喝したり、自分たちのミスを何度も押し付けたり」


「まともなコミニケーションと言えますか? 世間様……、もっと言えば、生命がけでダンジョンに挑む方々の目の前で、本当に?」


 反撃開始の狼煙は上がった。同時に、アーリアの目前には、もう守衛室が小さく見えていた。

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