第22話 カスハラ(3/7)

 およそ10年前。ダンジョンが国に認知され、公表された当初。


 県下、国土交通省の下請けの警備会社が、最新防衛設備の塊である、ダンジョン入口の管理を任される事になった。


 しかし、経費、防衛費削減の煽りを受け、今現在は一部の警備会社が高齢の人物を雇い、守衛を昼行う事が通例になってしまっていた。


「ま、夜勤の私は中で仮眠取りながら、観測計器が異常値出したら連絡。対応するだけで良いんだけど、とにかく入出管理警備の怒鳴ってくるおじいちゃんが、出てきちゃってね……」


「アーリアとしても、ダンジョンって言う繊細な土地の目の前で、で火遊びは勘弁して貰いたいなぁ。流石に本気で」


「当人はまるでそういうの意識して無いのよ、困った事に」


「え、どんな事言われたんですか」


 聖は無言で、自身のスマホを一馬に差し出した。

 ゴミ出しへの不平等。口癖への批判。交代時間への不満、会話方法への批判。鍵などの道具の使い方への批判など。


 事細かに彼女は怒鳴られた内容を、スマホのメモ帳に記載している。かなり膨大な量である。


 日付を辿ると1年ほど前からのようだ。


 少しチェックしたが、少なくとも彼女が記録を取った概要は、怒鳴るほどの正当性は、まったく無いと十分に主張できる内容だった。


「録音も取ってるわよ。その上で今は主に交代時間と、鍵や帳簿の扱いで揉めててねぇ……」


 聖の胸中は、失望、憤慨の色が濃く、一見困惑はほとんどしていないように見えた。


「半端に理性的で、その上で話が通じないのがかえって厄介なのよ。もう前みたいに、目の前で殴り合いの喧嘩して飛んでった方が、いっそ楽でやんなっちゃう」


「そんな人、いたんですか?」


「居たのよ昔。往来の喧嘩ならどうでも良いけど、ダンジョン近くで殴り合いはね。先任のリーダーと噛み付いてた人で、噛み付いた方が飛んでったわ。ほんといい年こいてね」


「上司に、ご相談は?」


「我感せずよ。口で注意こそするけど、それ以上する気無いの。外様のダンジョン庁としては、もうまるっと中身入れ替えたいのよね、きっと。でも新設組織だから、強く出ると後腐れが酷いって所だと思うわー……」


「実はね。一馬くんにもまだ相談してなかったんだけど、聖さん転職する気、ある? それに、……置き土産の準備は、もうバッチリしてあるんじゃない?」


 聖のメモを一字一句逃さずチェックしていたアーリアは、ニタリと笑って自身の結論を口にした。


「やっぱり、敵にはしたく無いわねぇ。アーリアちゃんは。察するに、スタッフへのお誘い?」


「そうだよ。チャンネル見てくれたんだ?」


「まあ、そりゃね。あなたTDDの大概のキャラより強いんじゃ無いの?」


「状況次第、……かな。何人か天敵みたいな、スキル持ちの人もいるし」


「正面から戦えるって、もう存在がファンタジーよね。今さらだけど。スタッフの件は是非お願いしたいけど、良いの?」


「働きぶりでダメだったら、容赦なくクビにするし良いよ。して欲しいのはマネージャーやプロデューサー兼任だけど。どうかな、カズマくん?」


「僕は助手だからね。正直現状、1人でも来てくれるなら助かります」


「分かったわ。でもそうなると、尚更あなた達の評判に影を落とす訳にもいかないわね。私の投稿にリポイストだけしてくれればいいわ。時間とハッシュタグを指定するから、偶然したという形で、どうかしら?」


 2人はあくまで冷静に、しかしニタニタ笑いながら、職場への最終サプライズの方法を詰めていく。


 一馬は女って怒らせるとコワイと、思い知る事になった。


「まあ、湯本のクソ次第だけど、そこまで酷い置き土産にはならないでしょ、たぶん。全部終わったら、また影絵劇を見せてちょうだい。……かの財宝王が、臣下に演じてくれたように」


「あ、あはははは、うん、また見せるね。ちょっと手を貸して」


 アーリアは聖の手を両手で握ると、額を付けるように、お辞儀をして礼拝した。


 アーレアックの銅像が、最も多く残っている姿。

 歴史の教科書にも載っている。臣下を鼓舞する所作である。


「よぉしっ。頑張って!」


「……うん!」


 軽食を取って、他愛のない世間話に花をもう一度咲かせて、夜勤へと向かう聖と別れた。


「聖さん、大丈夫かな……」


「大丈夫だよ、きっと。


「やけに自身あるね?」


「ふっふっふー、自分への期待。他人への期待。憧れってそんなに簡単に、振りきれる物じゃ無いもの。良くも、悪くもね」


 なんとなく意味深なアーリアの横顔に、どこかでまた何かイタズラでもしてきたのかと一馬は見つめていたが、そのまま花びらのような綺麗な唇に見惚れそうになり、とっさに目をそらしていた。

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