第32話 俺らの門出(5/9)

 昼食前にSNSで配信開始を告知し、たっぷりと余った豚肉で生姜焼きを堪能したあと、アーリアたちは、初のスタッフ入りの配信活動を始めようとしていた。


「背景画面問題無い、真司?」


「大丈夫や、バッチリ清水も映ってるで!」


 アーリアと禀、一馬の3人で、教室のような背景に変更されて映っている。


 あーでもない、こーでもないと、放課後部室に入り浸って制作したCG背景である。


 「とりあえず、タラスクスの簡易的なパワポは作ったわ、リハ終わったら始めましょうか」


「えっとごめんね、タラスクスの分、急に」


「良いのよ。これくらいしかできないんだから」


「あのね、ありがとう。おさらいだけど、ダンジョンを本で開いてる所は、精霊がイタズラするかもしれないからカットで。もしドローンからの電波が中継出来なかったら、その時は一度すぐ帰って来るよ」


「了解。届くと良いわね、電波」


 アーリアが自身の迷宮本のダンジョンから、配信活動するのは初となる。


 上手く電波が伝わるかは試して見ないと分からない部分もあるので、儀式の配信中止も十分ありえると事前告知では掲載されていた。


 リハーサルが終わり、聖はチャンネル配信画面を呼び出した。


「できればストボスの所みたいに、歌とか入れたいわよね。待合画面」


「あっ、良いですね。それ」


「アニメーションでも良いかも知れんね。今度作るか」


「うーん、アーリアすっごい音痴だからねぇ……」


「こういうのはズコーでもええんや。徐々に上手くなるのも、味わい深いもんやで」


「そういうものなの?」


「むしろそっちが、メインコンテンツまである」


「ま、とにかく始めましょう。禀ちゃん。準備は良い?」


「ふぇえ……はいぃ……!」


 ガッチガチに緊張している禀の手を取って、一馬は聖と真司にウインクした。


 顔を見合わせた三人は、ニヤッと同時に笑った。


「じゃ、始めるで!」


「えぇっ、そんなっ、まだ!!」


「3・2・1ぃ!」


「生徒のみんなー! 元気〜! アーリアだよー!」


「こんにちは! 生姜焼き美味しかったです! 一馬ですよー!」


「は、はじめましてぇ! ききっ、あっ、りんと、もも申しますぅう!!?」


「カットォ!!」


「プフッ」


 真司の声で聖が吹き出して、一拍置いて、禀はまだ本番が実は始まっていない事に気がついた。


「ウ・ソ、や♡」


「からかってんですかぁ! もぉおー!!」


「せやけど緊張はほぐれたやろ? じゃ、本番本当に行くでぇ!!」


「ははっ、覚えときなさいよ! この地図バカ!!」


「ハッ! 俺らの門出かどでじゃい! 死んでも忘れてやるかい!」


 一馬はもう禀の手を握っていなかった。アーリアは少々ゾクゾク身震いして、微笑んでその時を待つ。


「本番、始めるわ! 3、2の、1……!」


 学校特有の予鈴ベルの音が鳴らされて、アーリアたちが挨拶を開始する。


 同時に万を超える同接と、怒涛のようなコメントが流れ込んできた。


〝先生ー!〟

〝先生! こんにちわー! 〟

〝キーンコーンカーンコーン〟


〝規律! エルフ先生! 礼!〟

〝エルフ先生ー! 〟


〝あれ、ダンジョンの中じゃ無いのか? 〟

〝屋内か、自宅配信みたいやな。背景3Dやし〟


〝魔法って話だけど、告知か何か? 〟


「さて、今日は新しい生徒じょしゅさんをご紹介するよ! 魔法使い志願中の禀さんです!」


「は、はじめまして生徒の皆さん! 禀ですぅ! みぃ、右も左も分からない、魔法使い志願生徒ですが、よろしくお願いしますぅ!」


〝カミカミwww〟


〝委員長タイプだ!? 〟

〝可愛いwww〟


〝お、お清楚……! 〟

〝ほう……お姉様と呼ばせたいですね〟


〝スリーサイズは〜? 〟

〝どこ住み? ラインやってる?〟


「す、スリーサイズぅ!? え、えっと……!?」


「さっき一緒に着替えたけど、ボンキュッキュッだったよ、……アーリアと違って」


〝ほう、お尻の小さな女の子(ガチ)ですか〟

〝ドンマイ、エル先! 〟


〝正直すまんかった、先生〟

〝また陰の者オーラがwww〟


〝顔真っ赤www〟

〝コラー! 男子! 委員長がビビちゃうでしょー! 〟


〝こっからセクハラ禁止! 〟

〝ごめんね委員長ー! 〟


〝エルフ先生、先日のアレは……? 〟


「偶然見つけたんだけど、びっくりしちゃったよ。知らない仲じゃ無いし、殴る前に止められて良かったね」


〝まったくだ〟

〝あの人、あのあと、どうしたんだろ……? 〟


「別の仕事に就職できる見込みでしたらしいよ。なんにせよ被害が少なくて良かったね」


「あ、あははは……」

「今日は、生徒のみんなに、お土産があるよ」


〝お土産!? 〟

〝なんだ、旅行……? 〟


〝先にゴールデンウィーク過ごしたん? 〟


〝僕も先に、旅行行ってきました〟

〝伊豆の踊子。ベリービューテフォー……〟


「じゃ、画面を切り替えるねー」


 アーリアの合図でドローンで空撮されている、神社の裏手に画面を切り替えた。


 撮影された景色には、氷漬けにされ保存された巨体。タラスクスの死体が映し出されていた。


〝氷……? 〟

〝氷山……? 〟


〝ファ!? 〟

〝ワニィー!!? 〟


〝でっっっっっ!!? 〟

〝なんじゃあこりゃあああああああ!? 〟


「タラスクスだよー」


 呑気なアーリアの声と裏腹に、例え死しても戦慄を抱かざるおえない、紛れもない竜の威圧に、誰もが冷や汗をかいていた。

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