第33話 精霊の誘い(6/9)
騒然となるコメント欄を尻目に、聖は右下に3人の姿が小さく映るように、画面を分割した。
「ダンジョン近くで偶然見つけたから、急遽討伐したの。慌ててたし、相手が相手だから配信できなかったよ。ごめんね?」
〝タラスクス……? 〟
〝デッッッッッッッ〟
〝コイツ毒吐くんだっけ? 〟
〝せや、環境破壊、環境汚染モンスターの代名詞みたいなやっちゃ〟
〝何やっても破壊する、悪剣竜は伊達じゃねえはずなんだが〟
〝アメリカで大火事の原因になった奴やな〟
〝コイツが床にトゲ擦り付けるせいで、天然の棘付き落とし穴とかあるんだよな〟
〝ど、どうやって仕留めたん……? 〟
「えっとねぇ。油断して大口開けてたから、即顎下に潜り込んで、吹っ飛ばしてひっくり返したの」
〝ひっくり、かえした? 〟
〝1トン以上、余裕であるよな……? 〟
〝下手すると、5トン余裕のはずなんだがwww〟
〝相変わらずとんでもないwww〟
〝ほとんど怪獣相手でもこれかぁww〟
「口を強引に突然閉めたせいと、アーリアが殴ったせいで舌が傷ついて、そのまま喉奥まで長い舌が絡まって呼吸困難で……」
〝うっわぁ……〟
〝哀れな……〟
〝合掌〟
〝窒息死とは、汚く醜い最後やなぁ……〟
「あのね。周囲も相当壊してたから、完全に駆除対象だね。せっかくだからまた博物館に寄贈して、剥製にして貰うよ」
〝それが良いな〟
〝姿形、生態知ってれば、逃げられるしな〟
〝デカすぎる気もするがwww〟
〝完全に扱いがワニwww〟
「じゃ、教えたとおりに解説してみて、禀さん」
「ふぇ!? 私ですかぁ!?」
〝委員長がんばえー! 〟
〝早速生徒に解説投げとるw〟
「情報が足りなければ補足するから、気軽にしゃべってよ」
「は、はい……えっと、モンスターとしてのお名前は悪剣竜。タラスクスです。聖書にも出てくる悪い竜に似ている姿から、そう名付けられました。見ての通り、巨大で全身凶器の塊のようなドラゴンで、排泄物ですら、火事を起こす危険性が確認されています。あとは……」
「見かけたら、戻ってダンジョン庁に報告するだけで、金一封貰える有害怪物種の1体で。幸い背中の甲羅のせいでかなり動きは遅いから、びっくりしないでしっかり逃げれば避ける事はできるよ」
〝逃げれる(逃げきれるとは言ってない)〟
〝それ、比較的遅いってだけじゃwww〟
〝痕跡は派手な生き物だから、見かけたら速攻で逃げ一択だな〟
〝国内クランでも、討伐まだなんだっけ? 〟
〝いや、ハンターズが4件、ストブラが歴代総長主導で、だいたい1ヶ月くらいかけて倒しとる〟
〝完全に魔狼再来クラスの災害やなぁ……〟
「逃げる時も排泄物を踏みつけて怪我したり、地面に擦り付けた背中のトゲが落とし穴罠になったりするから、ナワバリを見かけたら直ぐに引くことが重要だね」
最後に一馬が締めくくって、画面の映像が再び教室の背景に戻った。
「じゃあ、今日もダンジョンに潜って行くから、来て早々で悪いけど、入る手続きしてくるね。タラスクスのせいで、ちょっと予定通り行かなくて……」
〝いてらー! 〟
〝急なトラブルはしゃーない〟
〝急なタラスクスとか言う、日常じゃ絶対出る訳ない、超パワーワードwww〟
〝向こうにしたら急なエルフ先生だから、まさしく大事故だなwww〟
〝にしても排泄物ですら危ういタラスクスが、このクラスにデカくて未確認はおかしくね? 〟
〝洞窟か湖の底にでも居座ってたのかもな、アメリカのはそんな感じだったらしい〟
「じゃあ、準備するから待っててねー!」
アーリアが最後に挨拶し、聖がパソコンを操作し、待ち受け画面に配信を切り替えた。
カチコチに緊張したままの禀の肩を、一馬はポンポン軽く叩いた。
「良くやれてたよ、禀」
「うぅ……すっごく緊張しましたぁ……」
「アーリアたちもまだ10回もしてないから、緊張しちゃうね。でも、楽しいでしょ?」
禀はテキパキと次の配信の準備をする聖や、専用の道具で、地図制作の準備を始める真司を見つめて、微笑んだ。
「はい。楽しいん、……ですね」
「は、ふぅ……それじゃ、機嫌が良くて相性の良い本を選ぼうか。杖で軽く触れて、良く見て、匂いを嗅いだり、音が良いなって本を選んで」
「匂い、ですか?」
「こういうのはね、五感で感じて、相性の強弱を測るの」
部屋の中で虫干しされている本に、恐る恐る杖先で触れてみる。
良く観察してみると、それぞれ匂いや、見ていて胸の内に込み上げる感覚が違う。
3つ目に触れた本が、何か、乾いたような感覚と、日照りのような熱い感覚を感じる。
他の本を回っても、ここまで何かを感じると言う事は無かった。
「む。この子、割と
「気障難、ですか?」
「気まぐれで、でも相性が良いなら相応の恩恵と災いを強めにもたらすということ。他を選んでもそうだけど、覚悟が居るよ?」
普段呑気な彼女には、あまり見られない真剣な表情。気圧されないように、禀は拳を握り込んだ。
「はい。頑張ってみます」
「じゃあ、好物の人参とジャガイモで良いかな。野菜ならなんでも喜んでくれたけど」
「アーリア。台所から取ってくるよ」
「お願い。じゃあ、始めよっか」
アーリアが家の外に出て、厚めの毛皮を敷いて本を置き、開いて杖で軽く2回触れた。
「うわっ!?」
離れていた一馬が驚いたのも、無理は無かった。
ひとりでに風が吹き、本から紙が吹き出てくる。
明らかに綴じている量より多く、勢いよく風に乗って真司の方へ殺到していく。
「ぬぁあぁああぁああああー!!?」
「あちゃ〜……」
伏せて必死に防御していると、ひとしきり満足したのか、紙たちは地面に張り付いて、地下への階段のように道を作った。
「すごい! 魔法使いみたい!」
「いや、ちゃんと魔法使いだからね? 大丈夫、真司さん?」
「な、なんでワイだけ……?」
「あ、生きてる」
「生きとるわ! 扱い雑やない、清水ぅ!!?」
「さっき禀さんにイタズラしたのを、見られてたのかも。イタズラするの、彼ら大好きだから……」
「んな、殺生なぁ……」
「離れてて良かったわ。じゃあこれを」
聖は耳に掛ける機械のような物を、一馬、禀、アーリアに手渡した。
「これは?」
「耳を覆わない骨伝導イヤホンとマイクを用意したわ。私たちスタッフの声は、そちらでね」
「アーリアも使える?」
「耳の形は問題無いはずよ。ダメなら、後で調節しましょう」
イヤホンは問題なく付ける事ができた。紙で出来ている階段の奥は、ほのかに明るい。
誘われるような明るみに、禀は魅入られて階段の奥底を見つめていた。
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