第10話 容赦、問答無用(6/6)

 アーリアは攻撃を受けても微動だにしなかった。

 倒れたのは、逆にシルバーの方だった。


「(なんだ、この、なんっ、なんなんだ? 津波かなんかでも、相手に、しているような……!?)」


体幹ねりがまだまだだね。力尽くにこだわりすぎ」

「くっそ……!」


「それだけじゃあ反動だけで返されるし、連撃は、こうするんだよ!!」


 むちのようなしなる連撃を、木剣と腕で受けるも、すぐに木剣は砕け散って、大きくシルバーは弾き飛ばされた。


 手刀だけで返された回数は、きっちり殴った数と、蹴った数と同じだった。


〝つっっっよ!? 〟

〝あの総長が、まるで勝負になってない……!? 〟


〝殴られたのに、なんでまったく堪えてねえんだ? 〟

〝あんなにちっちゃいのに〟

〝物理が、バグってるみたい……〟


「次の剣を、カズマさん!」

「は、はい!!」


「この……!?」


 木剣を受け止めたシルバーは、恥も外聞も捨てて、長い髪を掴んで壁に頭を押し付けて削る。


 あるいは掴んだまま壁で殴打する、大きな手と、手首のスナップを生かす。喧嘩殺法を試みた。


 髪に触れる事はできた。完全に読まれて振り回した髪が、切り裂くように襲いかかる。


「いででで!!?」


「今のは悪くないけど、読まれたら逆に武器にされるよ……本当にタフだね。一般の格闘家なら、もう30回は痛みで立てないのに」


〝なあ、気がついたか? 〟

〝あっ、あぁあ……! 〟


〝さっきから、アーリアさん。ほとんど足動かしてない……! 〟


〝マジで? 〟

〝マジだ……巻き戻しても、ちっとも動いて無い〟

〝なんつー強さだ……〟

〝フェイク、は、そもそも佐久間プロが許さんか〟


「彼女の本当の武器は、おそらく足ですね」

「ほ、本当ですか……?」


〝マジかよ!? 〟

〝ふぇ……〟

〝まだメインウエポン使って無いのかよ!? 〟


〝おいおいおいおい〟

〝息一つ、汗一つ乱れてない……〟


「源流は最初の構えから、古代武術カラリパヤット。つまりヨガですが、相当他武術も組み込んでますね?」


「御名答。……ん。リキみが抜けて、構えがようやく冴えてきたね。少し上手くなった」


〝ヨガw〟

〝ヨガか〟

〝元々武術だもんな、アレ……〟


「う、おぉおおおおおおおお!!」


 何度も殴り合いの応襲を重ねる。

 余分が削がれ、シルバーは呼吸だけを既に意識している。


 目の前に星が踊る、視界にノイズが飛ぶ。息が荒い。だからこそ。


 拳が、冴え始めた。


「はっ、あぁああ!!」

「…………っ!」


〝一歩、引いたぁ!!? 〟

〝おおおおおおおおお!? 〟

〝総長ぉおおおおお!! 〟


〝がんばれ総長殿!! 〟

〝負けるな総長!! 〟

〝いけええええええええ!! 〟


「まだ……まだ……まだぁあああ!!」

「悪いけど喋れる内に、一度終わらせるよ!」


 戦いが始まって、初めてアーリアが一歩だけ踏み込んだ。


 手刀による、一撃。


 たったそれだけで弾き飛ばされ、周囲の壁に張り巡らされた結界は、ガラスの割れるような音を立てて、シルバーの背中に突っ込まれて砕け散った。


「がふっ……!」


〝あ、あぁ……〟

〝理不尽なくらい強ええええ!? 〟

〝魔法、使ってんのかね……? 〟


「私が確認できる限り、ただの武術だけですね」

「…………強い」


〝マジかー……〟

〝これもうどうやったら勝てんの? 〟

〝現代兵器? 〟

〝射線見切られそう……〟


〝殴られてんのに堪えてねえのは、どういう理屈なんだ……? 〟

〝攻撃を何かで返してるのかもな。タフの塊みたいな総長が、たったこれだけで異様に消耗してんのもおかしい〟


「くそっ、……ハァ、……ハァ、ま、……ハァ、くぅ……が、ぁ……」

「まだ、続ける?」


〝た、立つのか、総長……! 〟

〝総長……! 〟


「ふ、不良、はな、ふぅぅぅっ。頭下げたら終わりだ、……くそったれ……!」


「義は無いけど、助太刀するよ」

「お前……!?」


 一馬はシルバーの前に立って、深く姿勢を落とした。完全な臨戦態勢に、アーリアは嬉しそうに無邪気に微笑み返した。


「ふーん、カズマさんは、そっちに付くんだ?」

「僕も、いつだって宝箱に手を伸ばしたいだけさ」


 不敵に笑って、先程と同じように体毛がザワザワと変化し始めた。


〝あ、あれは一体……? 〟

〝熊の手……? 〟


「先日の動画をご覧の方は知って居るでしょうが、身体が混ざったせいで、熊モンスターの手足を扱えるようです。家のシルバー君と互角に殴り合ってたそうですよ?」


〝マジか少年! 〟

〝わ~お。変身キャラじゃん! 〟

〝カッケェ! 〟


「グロロロ、ロロロロ、ロロ」

「互角なんてとんでも無い。シルバーさんの方が、ずっと強いよ、だって」


〝総長w〟

〝喋れなくなるのかw〟

〝変身ヒーローより強いw〟

〝どんだけw〟


「ふふっ、やっぱり見込んだ通り。……時間も少ないね。よし」


「先に今後どう態度を取るか、言っておくよ。ここまで叱られて、ヘラヘラ笑ってる子たちの言葉を、アーリアは以降ずっと、一切信じない」


「謝っても、泣き叫んでも、血反吐はいても、アーリアにコケにされたせいで報復してきても、お構いなしでね」


「アーリアは、シルバーさんみたいに甘やかさない。良いかな。佐久間さん?」


「……不徳の至りです。ご迷惑を、おかけします」


「うん。じゃ、残り43分、力尽くで蹂躙されよっか」


 結局、戦闘メンバー全員でアーリアに攻撃を仕掛けたが、30分前後ほどで誰も立てなくなり、一度も微動だにしなかったアーリアに、敵う者は居なかった。


 全訓練中唯一、彼女が足を引かされたのは、シルバーが仕掛けた渾身の一撃だけだった。


 相手をしていた全員は死屍累々に倒れこんで、四肢を投げ出して、荒い呼吸を整えている。


〝化身……暴の化身……! 〟

〝グ、グラップラーエルフ……〟


〝エルフの姉御強えぇ……〟

〝お前ら呼び名くらい、統一しろよw〟


「も、もう煙も出ねえ……」

「ロ、ろ、ロ、ろ、ろ、ろ……」


「ご、ごべんなざい……」

「謝るから、許してよぉ……」

「ハハ……ヘ……」


「ね、まだ笑う子居るでしょ? これだけは、言っておこっか」


 花咲くような笑顔で、彼女は長い金髪を長い耳にかけて。


 屈んで倒れ伏している者を、少し懐かしそうに眺めて、本当に日常のなんでもないことのように、彼女は言葉を選んだ。


「やり返して来たら。3倍返しか、シンプルにあなたの大事な人全員と一緒に、残りの一生ベッドとお友達になって貰うから、鬱憤はモンスターで晴らしてね」


「ずびばぜんでしだ……」


「謝ってもさっき宣言した通り、謝罪は受け取らないよ。ちゃんと自分の行いで価値を積み上げて、それから立派になったと思えたら、もう一度謝りに来て。いつでも、……待ってるよ」


〝ママ……〟

〝お母さん? 〟

〝ママみが深い〟


〝エルフさんは俺のママだった……? 〟

〝仁義ってやつやな〟


「…………はい」


「シルバーさんもリーダーなんだから、甘やかしてばっかりはダメだよ?」


「め、面目ねえ。こればっかりは、お前の言うとおり、だ」

「言って、君の好きは、誰?」


 シルバーは少し付き物が落ちたような顔つきで、顔を覗いてくるアーリアを見つめた。


 言うべきだと、感じた。同時に、覚悟して目指すべきだとも思えた。


「メガナダ、だよ」


「うん。きっとそうだと思った。磨けばきっと、雲の咆哮に届くね」


「……ハッ、お前に言われちまうと、本当にいつか、届いちまい、そうだな」

「よ、し、じゃあ、アーリア。あ、だめだ立てない……」


「お待ち下さい」


 配信終了の挨拶を済ませた佐久間プロが、アーリアたちの前に歩いてきた。


「まずは謝罪を。あまりにも不快な態度で、かつ安すぎました。この国を代表して、誠心誠意謝罪いたします」


「別に良いよ。本気で殺意を持ってるわけじゃないし、値段相応しか指導して無いよ。それに、きっかり2時間だけだもの」


「……8億、ドルでご用意できます。それがこちらが契約できる。上限です」


 最初に会った時と同じように、佐久間プロは眼鏡を人差し指で押し上げて、アーリアに全力での交渉を持ちかけていた。




────あとがき────


マスクデータ更新!


アーリア スキル


??????(妖)Lv EXTRA


 ???南部の????地方発祥の古代武術。才覚に頼らず、合理性のみで至るべき武術の始祖。


 象、獅子、馬、猪、蛇、猫、鶏、竜(魚)、8つの動物の型から成る。


 彼女のそれは法悦に至り身に着けたものではなく、尊き読経どくきょうを得て自ら積み上げた物。そのため柔軟性や健康法、舞踊、他者への指導、伝授に優れている。



カラリパヤット(妖)LvEXtra


インド南部のケーララ地方発祥の古代武術。才覚に頼らず、合理性のみで至るべき武術の始祖。

象、獅子、馬、猪、蛇、猫、鶏、竜(魚)、8つの動物の型から成る。

彼女のそれは法悦に至り身に着けたものではなく、尊き経を得て自ら積み上げた物。そのため柔軟性や健康法、舞踊、他者への指導、伝授に優れている。



織田一馬 スキル


?力(?)Lv7


 ?????のみが持つ種族特性。一定時間身体の一部を??させ、武力を二段階上昇。痛覚を鈍化させる。


 代償として、能力行使中は、??としての会話が行えない。



妖力(熊)Lv7

 モンスターのみが持つ種族特性。一定時間身体の一部を変身させ、武力を二段階上昇。痛覚を鈍化させる。

 代償として、能力行使中は、人としての会話が行えない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る