第16話 宝物王アーレアック(5/6)

 周囲にモンスター避けと遮音、認識阻害の魔法。遠目に探知の結界魔法を張って、軽食と仮眠を取り、一馬たちは休憩していた。


 目が覚めてTDDのガチャ押す前に、アーリアがまたしても奇行に走った。


 必死に画面を見ないように、指先をプルプル言わせながら、スマホをタップしようとしている。


 別の操作が入力されて、先ほどからゲーム音に反応しては、画面を戻してを繰り返していた。


「なに、やってるの……?」


「画面を見ないで引くと、良いのが出るって聞いたんだよぉぉ……·!」


 鬼気迫る声に一馬が呆れて見守る中、ようやく1回分無事に、スマホが反応してくれた。


「あ、金回転!」


「本当!?」


 一馬の声に、アーリアは一気に目を見開いた。


 金回転。虹回転には劣り、★2までの高レアリティが当たりやすい、むしろ下弦が大幅に広がってしまう。痛烈な希望と絶望の始まりである。


「クラスは……!?」


「ファイター……!」


 金色刺繍のタペストリーに表示されたクラスは、ファイター。


 戦士であり、前衛で戦う。迷宮探索における、単体攻撃や防御の要だ。


 アーリアはほとんどの★2ファイターを所持している。思い入れもある。被るならば、死亡の際蘇生に関わるメンタルアップとして、お守り保険にもできる。


 多少。安堵と共に演出を見送ったがっ……!


「あぁああああ!!?」


「あー……」


 一馬の絶叫と反比例するかのように、アーリアの冷めていく声がダンジョンに響いた。


 レアリティ★3。クラス、ファイター。


 『宝物王アーレアック』


 現TDDに置いて最強の手札が、勇ましく宝箱を掲げて、スマホの中で微笑んでいた。


「やったじゃん! 超大当たりだよ!?」


「ウン。ソウデスネー……ヤッターアハハハ……」


 宝物王アーレアック。

 現TDDでは、推測を含めて、未来泳法トップTEARであろうとされている。キャラクターの1体である。


 キャラクターコレクションゲームには、いわゆる「人権」と呼ばれる一定以上の「ガチ」プレイヤーさえ唸らせる。高性能スキル持ちのキャラクター達が、存在する場合が多い。


 アーレアックもその1体であり、1000万ダウンロードを記念してピックアップ実装された、その性能は破格の1言だった。


 プレイヤーによっては、彼が居るか居ないかで、今後のTDDにおける、快適度が段違いと語る者も居るかもしれない。


「良いな〜。僕1体も引けてないんだよぉぉ……」


「ソウナンダ。ザンネンダッタネ……」


 彼の史実での経歴は、2〜5世紀の中世ヨーロッパで財宝勇者とも呼ばれ、史上最多の宝箱をダンジョンで見つけた、伝説上でのダンジョン探索の元祖とも呼ばれる探索者だ。


 当時の金額で世界の半分を有に買い占める宝物。数々の新技術を発見し、現代医学や現代科学の礎になったのではないかと言われる。由緒正しい王様である。


 出生は北欧であり、貿易商人としても優秀だったとされ、北欧諸国に多く散見される銅像は、何度も修復されて、今現在も残っている。


 もっとも、残っている銅像の形は、ほとんど統一されていない。


 彼の存在は古代ダンジョンの実在性と共に、確実に存在したという証拠は、何一つ残っていないのだ。


 誰かの創作か、複数人、あるいは何かの団体だったのではと言うのが、現在の考古学では最有力である。


「うぅ……どうせ出るなら。ルキウス君とか、ダゴネット君の方が良かったよぅ……!」


「な、何を言ってるんだい、アーリア?」


 地面に敷いたシートにスマホを落として、がっくりと這いつくばって、彼女は涙目になっている。


 一馬には、わけがわからなかった。なぜ超大当たりとも言える。アーレアックが当たって喜んでいないのだろうか?


 そもそも彼女はTDDが根本的に大好きだ。外れる事だって、残念に思いながらも楽しんでいる節がある。


 そして、彼女は自称2000歳。史実のアーレアックと大体同い年。つまり……!


「昔、アーレアック本人に、何か嫌な事でもされたの?」


「違ーうー!! あたしが……! そのぉ……」


 何かを勢いよく言いかけて、躊躇う。

 アーリアは指先をもじもじさせながら、ふと気がついた。


「と言うか、信じてくれるの? 2000歳だって……」


「あー……信じる信じないと言うか、アーリアのする事は、もう明らかに嘘っぽくない限り、信じちゃう方が、精神衛生上良いかなって?」


「な、なぁにそれぇ……あっ……」


 スマホを拾って、一馬はフニャフニャ笑い始めたアーリアの手を取って、スマホを手渡そうとした。


「ふふっ、やっぱり。笑うとかわいいじゃん?」


「かわっ……!?」


「おっと」


 ドキッ……と一瞬、アーリアはスマホを落としかけて、一馬に手ごと包まれるように握られた。


 目が合って、互いに吐息が重なるほどの距離で、手元のスマホに視線を落とす。


 「(言おうか、言っちゃおうか。言っちゃ、うんだ……)」


「あ、あの……あのね。カズマ……くん。私、がね……」


 ギィンッ! ギィンッ! と。

 災害警報のような、結界の警戒音が響き渡る。


「アッ……むぐっ……!?」


 呼びかけられる寸前、アーリアは一馬の口を手で塞いで、柱の陰に移動した。


「(何か来る。静かに!)」


「(う、うん)」


 ぬっ……とした影が、すぐ近くに顔を出した。


 横に、10m近くはあるだろうか。


 ちょうど柱の影になり、よくは見えない。


 ぶよぶよした巨大な奇形が、柱の間に手を伸ばして、地面に身体を付けず四肢を伸ばし、こちらに近づこうとしていた。

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