第26話 LAST SURPRISE!!(7/7)

 散々無視されていた湯本は、先ほどの渡辺隊長の発言で、力なく席に座る彼を見つめている。


 アーリアは本当にどうしようも無かったら、強制的にクビにする手配を彼の上司に相談しに行こうと思い、湯本に話しかけた。


「シルバーさんも言ってたけど、あなた評判悪いの知ってた? 湯本さん」


「は? なんの?」


「みんなに呆れられて、怒らせて、許されてれたから増長してにし始める。実に分かりやすい態度だったね。下らな過ぎてこの短い一年、ずっと反吐が出てたよ」


「あーはいはい。もう社として謝ったし、良いんでしょ?」


〝わーお〟

〝無敵の人だw〟


〝ここまで来ると逆に感心するな。奇妙だが〟


〝まぁ、業務的には一応ただの部外者だからな、エルフ先生〟


〝とは言え間違いなく、太客なんだがwww〟


「━━━━━━━━ 死にたいの?」


 笑顔すら作らず、まばたき1つだけで、本当になんの気負いもなく、アーリアは自身のさっぱりとした憤慨ふんがいを口にし始めた。


 あまりに素っ気ない抑揚の言葉だったので、目撃した全員が気に止める事すらない様子である。


 一切の証拠を残さず、この場で死を刻み付ける事はできる。


 アーリアが意識して一歩踏み出すだけで、3日後の正午ちょうどには、なんの痛みもなく、安らかに心臓を完全停止させる事は容易である。


 最も後腐れ無い方法。しかし、どこまで行ってもこの口論は、彼ら二人と聖の戦い。


 決闘である以上。どのようにアーリアが怒りをたたえていたとしても、手助けで始末を付けるのは、戦士としての流儀ではない。


 何より、この男は殺害するほどの価値すら、微塵も感じない。


 アーリアにとって、路傍の石どころか、もはや見知らぬ保健所のモンスター以下に等しい。


 故に、彼女は笑ってさいを手放す事にした。


「どうしよっか、聖さん?」


「そうね……」


 聖は考えを巡らせる。


 仮に殺害を彼女に頼めば、胸はスッとなるが、間違いなくアーリアは世間に非難される。


 そうなれば自身も罪に問われるかもしれない。そこまでして復讐する価値は無い。


 老い先短い老人に、賠償金をぶん取るのも面倒くさい。そもそも裁判の手間や時間がかかりすぎる。


 時間、老い先短い寿命…………!


 彼女は、1つの妙案を思いついた。


「アーリアさん。魔法で寿命をどれくらい伸ばしてあげられる? できれば、老いていくのは、そのままで」


〝ファ!?〟

〝え、どういうこと? 〟


〝うわっ、最悪じゃねそれwww〟


〝とんでもない事思いつきやがった!? 〟


〝魔法って、そこまでできるの!? 〟


「…………へぇー」


「な、なんだそれ……?」


 アーリアは感心して聖の横顔を眺めた。


 拷問のような、長く続く生を憎い相手に送る。やはり人間さんは面白いと、彼女は心の底から思えた。


「…………イェヒヒ、できるよ。たった100年くらいなら、指先で触るだけでね」


「なっ!?」


「良かったわね。大好きな常識だけと、100年も追加で一緒に居られるそうよ」


〝wwwwwww〟


〝控えめに言って最高〟


〝無敵なら、そのまま放置かwww〟


〝並の拷問は目じゃねえなwww〟


〝さ、流石に止めてやろうぜ、そこまでは……〟


〝俺は賛成。寿命なら程よく別の原因で死ぬだろ〟


「そ、そんな事、あるわけ無い。できる訳が無い! だ、だいたい警察だって……!」


「あいにくこの国に、寿命を伸ばして逮捕される法律は、ただの1つも存在しないわ」


「人生と言う名の牢獄で、老いて何も出来なくなって、せいぜい短く苦しむと良いよ」


「ふ、ふざけっ……!」


 湯本が慌てて、アーリアの脇を通り抜けようとした瞬間。


 トンッと軽く指先で触れられて、彼は何度も自分の身体を確かめるように、触り始めた。


「え、え、えぇ!?」


「じゃ、たった今から100年間。あなただけの常識好き勝手と、素敵なセカンドライフを。たまに様子を身に来てあげるよ。他の人に同じような事してたら、即追加で1000年ね。アドバイスだけど健康に、真っ当にお金を稼げば良いと思うよ」


〝に、逃げ道がねえ! 〟


〝流石のエルフ先生、追撃に余念よねんが無いwww〟


〝もはや実家のような安心感すらあるわ、追撃w〟


〝ご老人は、労らなきゃなあwww〟


「帰宅時間が過ぎましたね。では、お疲れ様でした渡辺隊長」


「あぁ……、はい。お疲れ様でした、聖さん……」


「あ、そうだ。伝え忘れて居ましたが、今日本部に退職届を受理して頂きました」


「…………はい?」


〝ヒュー!〟

〝なんつー鮮やかな引き際〟


〝か、カッコいいwww〟

〝まあ、そりゃね、辞めるよね……〟


「湯本氏が今まで私に行って来た、妨害の数々も録音付きですべて報告しましたので、長い間お世話になりました。では週末に、またお会いしましょう」


「ああ、え、はいぃい……?」


〝最後にとんでもないサプライズをしていきやがったwww〟


〝見事な引き際www〟

〝最高の置き土産www〟


〝マジ一切の容赦ないwww〟

〝誰だってそうする。俺だってそうする〟


 生配信を終え、思わず手を伸ばして来る渡辺隊長に、目線1つよこさずに颯爽と、聖とアーリアは守衛室を振り返る事無く後にした。


「本当にしたの、寿命?」


「ご想像にお任せかな。でも、そんな価値あると、ほんの少しでも思える?」


「無いな、無い無い。あ~やっとスッキリしたわねぇ、最っ高の気分だわ〜」


 年末の大掃除を終えたような快感に、何一つ憂いなく背筋を伸ばして、聖はアーリアと共に、歩んで行く事を決めた。


「あ、アーリアぁあ〜……!」


「あ、カズマくん。来てくれたんだ。終わったよ」


「アーリアは飛び、出して、行き、過ぎだよ……」


 全力疾走したのだろう。一馬は情けない声を出して、息を切らせて這いつくばっている。


 変身したのか短パン半袖姿で、袖や裾を捲って、アーリアに必死に追いついて来たようだった。


「ごめんね。大人の話し合いだったし、顔出しちゃったからさ」


「…………もう。いつか手錠でもかけてやる」


「あはははっ、冗談、だよね……?」


 悪態を付きながら、それでもどこか安堵して、一馬たちは帰路につくことになった。



◇◇◇



 指先が影を作り、人影のように踊る。影絵劇の開幕に、聖は勝利の美酒ワインを深く味わい、アーリアに微笑んだ。


「とある国に、女騎士と、老いぼれた騎士たちが居ました」


「彼らは王様から、ある場所を守るように言いつけられた騎士たちでした」


「老いぼれた騎士たちは、口々に自身が得た金貨を自慢し、乱暴に怒鳴ります」


「女騎士は、老いぼれた騎士たちのうるさい怒鳴り声に、毎日とても悩まされていました」


「ある日、女騎士が家に帰ると、いつも磨いている金貨を持った妖精を見つけました」


「この金貨を使って、みんなから力を借りようと妖精は言いました」


「女騎士は金貨を見せ、みんなから力を借り、老いぼれた騎士たちに決闘を挑みます」


「老いぼれた騎士たちも、同じように金貨を見せますが、黒ずみ崩れるほどのみすぼらしい金貨に、見向きをしてくれる人は、誰も1人もいませんでした」


「みんな、みんな、女騎士を応援し、老いぼれた騎士たちの怒鳴り声は、応援の声に、かき消されてしまいました」


「かくして! 老いぼれた騎士たちは、人々を味方につけた、たった1人の女騎士に、惨めにも敗れたのでした。めでたし、めでたくなし!」


 猫たちの興奮した鳴き声。若人たちの笑い声。

 友と勝ち取った。勝利の美酒を掲げ合う。


 暗い部屋に達者な影絵劇を締めくくる、賞賛を送る拍手の音が、いつまでも鳴り響いていた。





────────────────────────────────


 ご老人は無理に働かせず、敬老しなければなりませんよね。もちろん悪意的な意味でなく、です。


 それはそれとして、巫女服はすべてがイキり立ちますね。


 恐縮ですが、より多くの人に読んでもらえるよう、よろしければ↓の☆☆☆を★★★する評価やフォローでの応援、よろしくお願いします。


 左上の×マークをクリックしたのち、目次下のおすすめレビュー欄から【+☆☆☆】を【+★★★】にするだけです。


 アーリア「そんなにみんな、巫女服大好きなの……?」


 一馬「ただの人類の至宝でしょ?」


 アーリア「なんて曇りない目で……! あっ、★で応援、よ、よろしくねぇ〜👋」


一馬「巫女服のアーリア、サイコォー!!」

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