第14話 名を取るか、実を取るか(3/6)

 一匹のゴブリンを追って、以前一馬が追い詰められた通路を通り過ぎる。


 床に広がった黒ずんだ血の後と、僅かに残ったクマの白骨。


 画面越しでない。あの日、確かにあった事なのだと物語っている。


 一匹だけ生き残ったゴブリンの足跡は、黒ずんだ血の跡を踏みつけて、奥へと続いていた。


〝そういえば、さっきの星潰しはダンジョンへの影響は無いの? 〟

〝TDDみたいに、デストルドー出て来るんだっけ? 〟


〝みんなのトラウマかwww〟

〝レイドでも、たまに死なねえもんな〟


〝運営が明確に垢バン対策です。って実装してるのも凄いよなwww〟


〝しかも垢バン数、ちゃんと公表してwww〟

〝毎度の事ながら、TDD運営の発想には、頭が下がるぜ……〟


〝そうそれ。あのゲームみたいに、13の出目ダイスや、垢バン数が関係するわけじゃ、ないだろうけど〟


「ダンジョンの破壊についてなら。よほどのことがない限り、影響は無いよ」


〝現実の方は、一定以上ダンジョン壊すと出てくるんだっけか〟


「その通りです。大型銃器とか、大規模爆薬とか、劣化ウラン弾とか。核兵器とかで破壊、汚染すると、無限出現するって授業で習いましたね」


自滅欲デストルドーなんて名前を人間さんがつけたけど。実際の働きは、まるで免疫細胞めんえきさいぼうみたいだよね」


〝アーリアさんは、倒した事あるんですか? 〟


「何度か。でも一番オススメできないよ。倒した途端消えて何も回収できないし、未来視とか、一度殺しても復活とか、一定以上のダメージ無効とか、再生とか、なんでもありで襲いかかって来るし……」


「出会ったと思ったら、まず逃げろって真っ先に教わるね……」


現実こっちでもデスペナ扱いかwww〟

〝討伐報酬貰えるだけ、ゲームのがマシwww〟


〝現実のダンジョンで使える銃器なんて、ホローポイント弾ぐらいだもんなぁ……〟

〝うわ、Wikipedia見たけど、戦闘機より強いのかよ……〟


「えっとね。そこは度々議論されるかな。世界で初めて空で倒したのは、空の魔王シュトゥーカさんだし?」


〝あ、本当だ。書いてある〟

〝釣り出して空中戦で撃墜後、爆撃含む戦車の十字砲火で討伐、か〟


〝でも、近代の戦闘機は単独でやられて、脱出って書かれてる……〟

〝つか、アイツ空中戦もできるのか……〟


〝ゲームより強くね? 〟

〝事実は小説よりイキナリだな〟


〝間違ってるのになんか合ってる気がするwww

〝空の魔王。やはりパねえwww〟


〝流石はアンサイクロペディアWikipediaのパロディに、嘘を言わせなかった男www〟


〝どうやって空で倒したんだろ……? 〟


「ん。そろそろ行き止まりだよ。注意しよ?」


「分かるの?」


「伊達に耳は長く無いもの。音の反響だよ。初心者の人も、音はなるべく注意してね」


 黙って二人が進むと、アーリアが足を止めた。

 一馬に片手で止まるように指示し、ベルトに付いた、柄のような部品に手をかけた。


 耳に心地良よく、しゃおん。と。

 何かを、アーリアが素早く振り回す。


 ガチン。という機械音が響いて、矢がヒュッヒュッヒュッと、三発。アーリアの目の前を通り過ぎたて行った。


「今のは……?」


「罠だね。床に細っこい糸があったから。雷の音ウルミで切ったんだよ」


 一瞬しか見えず。一馬が目を向けても、アーリアは腰元のベルトを、細い指先でつまんでいるだけだった。


〝矢罠とか怖っ〟

〝気づかず通り過ぎたら、正面からグッサリか〟


〝ウルミって、なんだ? 〟

〝柔らかく長い鉄で出来た剣だよ。ゲームとかで出てきた〟

〝インド圏の武器だな〟


「アーリアのウルミは、竜蛙ブリーブってモンスターの舌で作った特別性で、よく伸びるの」


「罠、だったんだ……」


「矢の回収の仕方を教えるね。これ自身がブービートラップの可能性もあるから」


 落ちている小石を拾って、十分な距離を取って矢に石を投げた。


 3本中1本の矢が、パンッと軽く小石に当たっただけで弾けた。


「あれは……?」


「ハジケカラシだね、矢の中心に猛毒と一緒に仕込んでたんだよ」


〝怖っ〟

〝うわっ、逆さにトゲだらけで痛そう……〟


〝これじゃ抜いても、肉こそげるだろうな……〟

〝殺意がすげえ〟


「浴びちゃったらアルコールや水で濡らした布で拭き取って、解毒薬を飲んでね」

 

 通路を曲がった先。開け放たれた岩穴の脇。


 羊のような巻き角と、ヒゲのような反り返る二本角の眼窩に、木材が突き刺されたトーテムが飾られていた。


「……目眩ましで、横穴とか隠す目的で置く場合もあるけど、これは違うみたい。多分部族のシンボルだよ」


「部族のシンボル?」


「群れの大事な物。心の拠り所……どうしよう。持ってく?」


「行き止まりだもんね。どうしよっかな……」


「そうだね。あくまで予測だけど、このトーテムに触れず、一匹残したのを生かせば、別の部族に合流して、1年は人をあんまり襲わないと思う」


「逆に、このトーテムには想いが籠もってる。手に入れれば魔道具として使えるかもしれない。奥に行けば財宝もあるかも。……どうする?」


〝悩ましいなw〟

〝俺なら財宝を取りに行くぜ! 〟


〝あるとは限らんねwww〟

〝ゴブリンだしなぁ……〟


〝ダンジョン庁は、ほっとく方を評価するだろうな〟

〝名声を得るか、実を得るかだな〟


「放置、しよっか。無理矢理殺す事も……」


「……うん。襲われるならともかく、無闇な殺生は、ね。じゃ、別の道から、もっと奥行こっか」


 最後に一馬は、クマのモンスターが居た方角になんとなく目を向けて、その場を静かに去ることにした。

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