第32話 義春に現状をアウトプットする
大学のケータリングのお弁当サービスで列に並び、チキン南蛮弁当を買って、テーブルを向かい合わせに座った。義春はお腹が空きすぎてガツガツ食べている。碧央は現状に悩み、モヤモヤして割り箸を割って、食べるのに躊躇した。
「食べないのか? 俺が代わりに食べてやろうか」
碧央は、箸を向けられて、お弁当を取られないように移動させた。
「食べるよ。食欲がすぐにはわかないんだよ。少しずつ食べるし!」
「へー、ほー、俺が食べてやろうとしたのによぉ」
「そんなことより、話を聞くって言ってただろ」
「あ、ああ」
「ああって、聞く気あるのか?」
「あるって。話すのはそっちだろ。ほら、話せよ」
義春は、ペットボトルの緑茶をぐびぐび飲んだ。碧央は深呼吸をして、話し始める。
「この間、義春がご丁寧に呼んでくれた佐々木望美先輩いるだろ?」
「あ、先輩? うん、なになに、ドロドロな感じになってるの?」
目をきらきらしながら、義春は頬杖をついて碧央の話を聞く。どこか不機嫌そうに碧央はため息をついて、続けて話す。
「結愛という彼女がいる俺がありながら、もう一人の彼女がいると思うだろ?」
「え? お前、いつも女連れまわしてるだろ? それが通常運転じゃないのか?」
「それは、卒業したんよ。そういうときもあったけど、寂しすぎて。でも、今は一人の人間を大事にしようと思ったわけ。でもさ、お酒の飲みすぎで、勘違いしてさ。結愛だと思ったら、望美先輩だったっていう……ありがちなミスをしてしまいまして」
「はぁ?!」
箸で口の中にかっこんだものが飛び出した。お行儀が悪い義春だ。
「ちょ、マジ。汚いわ」
「いや、お前の日常の方が汚いわ」
「何を?! 失礼しちゃうなぁ。そんなんじゃないよ。俺は、ミスっただけだ」
「ミスってなんだよ。普通間違えないだろ。彼女か彼女じゃないって姿、形も違うんだぞ。入り方も違うに決まってるだろ?!」
「な、なにを言ってるんだよ、義春。恥ずかしいこと言うなよ」
「感覚でわかるだろ。普通」
「いや、寝ぼけてたからさ。だって、夢のような感覚でさ。ふわぁってなるわ」
「……そんなん、知ったこっちゃないけど」
「マジ、本命じゃない人と結婚せざる得ないって半端ねぇよ。どうするよ。結愛と結婚したいって思っていたのに、まさか望美先輩だなんて」
「??? 結婚? なんで結婚の話になるのよ。ただ、間違っただけで?」
碧央の頬がだんだんとげっそりなってきた。義春はまだ状況を読めない。耳元でごにょごにょと現実を話す。
「はぁ?! お前下衆野郎だな」
「な、失敬な。お前に言われるとは思わなかった」
「それは、もう。責任取るしかないだろ。実際、現実に起こってしまったら。人生が変わるときだな。遂に。遊んでたやつが終結か」
「あーーーー……こんな独身生活の終わり方嫌じゃ。やっちまった、俺」
両手で頬をおさえて、げっそりとムンクの叫びのようになる碧央ににやにやと人の不幸を見て、面白がる義春だった。
「結愛ちゃんには、いつ話すのさ?」
「……まだ言えないよな。言わなきゃないってわかってるけど、俺チキンだから。怖い」
「でもまぁ、そういうやつって知ってて付き合ってるだろ。性格とか性癖とかいろいろ知られてるだろ」
「そ、そこまでは教えてない!」
「バカか。かわいこぶりっこするんじゃねぇ」
舌をぺろっと出して、ごまかす碧央に義春は呆れる。昼休憩が終わると、ざわざわとロビーが騒がしくなっていた。
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