第45話 本当の父親がわかる

 それから2週間後。結愛は体調を整えつつ、息子がいる病院に何度も通う日々が続いた。搾乳した母乳を届けて、様子を見に行く。なかなか保育器の姿から出ることはできない。体重が小さいこともあり、成長が平均的に人より遅い。本来ならば、お腹の中で育てないといけないのを早くに出てきてしまった。平均的も元々小さめだったこともある。結愛は、体調は良くなったため、退院して、毎日息子のために通う日々が続く。

 疲労困憊で無理をしすぎたせいか、発熱でベッドに横になっていると、アパートの受けポストに1通の封書がポンと届いていた。毛布にくるんで、ゆっくりと歩きながら取りに行くと、それは遺伝子検査の結果だった。


 いろんな数値が書かれた後に診断結果『被検者同士は生物学的に親子関係であると判断されます』と書かれていた。結果がわかってほっとした半面、結愛の中でどうすればよいかの不安が一気に押し寄せてきた。

 洸の本当の父親の名前は予想外のものだった。


 床に四つん這いになって、泣き崩れた。嬉しいような悲しいような、現実を突きつけられて、言葉にならないような気持ちになった。産後でホルモンバランスが崩れていることもある。発熱がしていることもある。泣き崩れたまま、いつの間にか眠ってしまい、夜まで目を覚ますことはなかった。



◆◆◆


 洸が入院する東田総合病院にて、小児科病棟の心電図の音が響いていた。ナースステーションにて発熱で具合悪くしてると結愛から連絡を受けた担当看護師の菊池茉奈は、洸が家族に1日誰も会わないのはかわいそうだと思ったため、家族として電話登録していた碧央の携帯番号に電話をした。


「もしもし、朝日碧央さんですか? 東田総合病院の小児科病棟、菊池です」

『あ、はい。お世話さまです。あー、あの、結愛のことですか?』

「あ、いえ。洸くんのことでお電話しました。結愛さんが発熱があるということで今日、病院に来てないんです。洸くんが誰も会わないんのはかわいそうかなと思いまして、ぜひお父さんである碧央さんに来ていただけないかと思いまして……別々に暮らしてる話は聞いてたので不躾かと思いましたが……」

『あー……発熱してるんですか。んーー。そのぉ。俺、父親じゃないので、別な方に連絡してもらっていいですか? いましたよね? サラリーマンの恰好の』

「え?! あ?! 嘘。間違ってます? 朝日さんがお父さんじゃないんです? 洸くんの顔そっくりですけど……」

『ごめんなさい。もう、俺、関係ないんで、電話しないでもらっていいですかね』

「あ、はい。すいませんでした」


 碧央は、電話の通話終了ボタンをおした。看護師の菊池はとても失礼なことしたと慌てて先輩看護師の菅野に相談する。


「先輩、先輩。大変です。この家族、めっちゃドロドロなんです。もう、いやだぁ、こういうの。どうしたらいいんですか」

「……いいね、そういうの。ドラマみたいじゃん。んで? どうなった?」

「菅野先輩、面白がらないでくださいよぉ。入院中の洸くんの話ですよぉ!」

「……ごめんごめん。はいはい。あとは任せておきな。先輩の私に」


 ファイルに挟んだ入院カルテを預かった菅野は、碧央ではないもう一人結愛の家族である坂本俊彦の連絡先に電話をかける。


「坂本さんの携帯で間違いないでしょうか?」

『へ? え? どちら様?』


 携帯電話を出た相手は坂本ではなく女性であったことに菅野は心中穏やかではなかった。


『おいおい、勝手に電話に出るんじゃない! すいません。どちら様ですか?』


 電話番号を登録していなかったようでどこからかかってきたかわからなかったようだ。


「……すいません!! かけ間違えました」


 これから起こることが触れていけないことではないだろうかと感じた菅野は慌てて電話を切ってしまう。


「先輩、電話番号を間違えたんですか?」

 頭に疑問符を浮かべる菊池の背中をポンポンとたたいた。


「ごめん。私にはこの案件無理」

「え?」


 菅野はカルテを菊池に渡して、立ち去っていく。


「えーーーーーー?! なんで?!」


 がっかりした菊池の声がこだまする。なにやら、複雑な家庭であることを悟った菅野はもう洸の家族に関わることをやめた。菊池は頭を抱えて、悩み続けるのだった。

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