第8話 静かに移動
名前を知らない彼女に平手打ちをされた碧央は、手でたたかれた頬を確かめる。夢でないことが分かった。こういうこともあるだろうと気にせずに講義を聞きに部屋で移動した。遅刻ギリギリの時間に入る。開いてる席は端っこの方だけだった。ざわざわと騒がしい部屋の中、碧央は、間に合ってよかったとため息をつく。後頭部をボリボリとかいて、バックからノートを取り出すと真横には結愛の姿があった。ふわふわのパーマがきらりと輝いて見える。至近距離で見たため、こんな顔していたかなとじろじろ見てしまう。結愛は、隣にいる碧央の姿に目を大きく丸くして少しずつ左側に小刻みに移動する。なんでここでまた再会するんだと自分自身にイライラしている。
不意にガシッと腕をつかまれた。体が硬直する。
「逃げなくていいし、そこにいろよ」
さらに目を大きくしてじっと見る。碧央は頬を少し赤らめて、隣にいるのが嬉しくなった。経済学の講師の話をそっちのけに頬杖をついた。つまらない話だなとあくびが出る。暇つぶしになるなぁと結愛の顔をじっと見る碧央。
「…………」
碧央の行動に不審に思い、結愛は黙ってさらに左にずれようとするのを、碧央は彼女のシャツの袖を引っ張った。
「何もしないから!!」
(本当はいろいろしたいけど!)
碧央は心の中は絶対見せたくないくらいに下心丸出しだった。結愛はその発言に嫌悪感を覚える。小声で話す碧央に結愛は下唇をかんで、黙ったまま、講義を聞き続ける。
「俺は無視かよ」
(暇つぶしにならないじゃないかよ)
結愛に期待をしていた碧央は、現状に不満だらけだった。早く昼休みにならないかなと何度も時計を見て、授業内容は頭に入ってこなかった。仕方なく、横顔を見てるだけで満足させていた碧央だった。
授業終わりのチャイムがなると、にやにやしながら、結愛の後ろを追いかけていた。尾行されてると思われないくらいの距離を歩く。結愛はケータリングのお弁当屋の行列にならんで、お弁当を購入していた。碧央はお弁当屋で買っている姿を見てみようかと近くのベンチで足を組んで眺めていた。ファストフードのバイトをしている彼女は、お弁当を買うのかと彼女のデータとして覚えておこうと考えていた。好きな人となると細かく知りたくなるのかと自分のことながら、ストーカーみたいで気持ち悪いなと身震いした。今まで好きになられた彼女は名前も覚える気持ちさえ起きなかった。不思議だなと感じてしまう。魅力的なんだろうかと改めて、頬杖をついて見つめていた。
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