第27話 勘違いのまま進んでしまう

 カクテルがおいしいと評判のBARに碧央は連れていかれた。高校の時の1つ上の先輩佐々木望美は、バスケ部のマネージャーだった。熱心に部員のサポートしてるところにいつもケガをする碧央に母性本能が生まれ、面倒をみていくうちに交際へと発展するが、碧央はそこまで本気ではなかった。周りにもてはやされて、致し方なく、付き合うことになる。そっけなくしていたら、ストーカーまがいのことまでされるようになった。卒業と同時に、受験のために塾で出会ったイケメンの新しい彼氏ができたと別れることができたが、大学の場所はお互いに遠く、遠距離恋愛だと騒いで、別れることになり、また碧央とメールでのつながりができていた。義春と望美は、同じ中学だということもあり、連絡先を知っていた。


「碧央、ここ座って、飲んで」


 碧央は、望美の言いなりに動く。断ると何をされるかわからない。今は彼氏彼女でもないはずだったが、会うと流れでそうなる自分が情けなくなる。


「はいはい」

「はいは、1回ね」

「俺は子供か」

「子供みたいなもんでしょ」

 

 カウンターの前に座って、グラスを拭くマスターにくすっと笑われる。


「いらっしゃいませ。お2人は、恋人ですか?」

「「いえ、違います」」

「え、ちょっと待って、そんな強く否定しなくてもよくない?」

 

 望美は残念そうに言う。碧央は複雑な顔をする。


「そっちこそ、今、否定しただろ?」

「えー、そうだったかなぁ」

「都合のよい耳をしてるようで、絶好調っすね。

「ちょ、その呼び方やめてって言ってるじゃない。碧央より年上ってバレるから」

「え、年上なんですね。全然見えないです。むしろ、若い」

 

 マスターは目を見開いて言う。碧央はその言葉に疑いの目だ。さすがはマスター。ごますりはうまい。


「で、でしょう? よく言われるのよぉ」


 望美はデレデレになって、むしろその対応がおばちゃんそのものだ。もう少しで社会人になるのだから間違いではないはずと変に納得する碧央だ。学生時代の思い出に花開いて、結局のところ、話が止まらなくなる。それは深夜にまで続いて、酔いつぶれた。

 碧央よりも肝臓が丈夫な望美は何件もお店をはしごして、結局、最後は自分のアパートの部屋に招き入れる。酔っぱらっていて、碧央もどこにいるかさえ気づかない。朝日が昇る頃までお酒を飲み続け、ソファに寝転びながら、スマホを片手に結愛の存在を思い出す。おもむろに電話をかけた。


『はい?』

「結愛~、ねぇーー、結愛~……ぐぅ……」

 透き通った結愛の声が耳に響く。安心して眠くなってくる。


『碧央、何してるの? 寝言?』

「違うよぉ~……今飲んでるのぉ……」


 酔いつぶれて、飲むことさえもできてないのに、飲んでることにして強い男を見せつける。ソファにくたぁと寝転んでいるのを、電話ではわからない。今すぐでも会いたくなる。


『どこにいたの?』

「今? へへへ……わからない? たは!」

 本当に酔いすぎて、どこの家のソファにいるかさえわかっていない。


『碧央! 誰に電話してるの? もぉ、誰よ。結愛って、今は私と一緒にいるんでしょ?!……ブチ』 


 望美はシャワーを浴びて、髪を乾かそうとリビングに来た際に碧央は知らない誰かに電話してるのが見えた。碧央の眠気が強くてかくんと腕が落ちて、スマホ画面を覗くと、『結愛』という文字が見えた。嫉妬心が強く出て、寝ている碧央の横で電話の通話終了ボタンをタップした。


「まったく、私といるときくらい、スマホの電源切ってほしいわ」


 そう言いながら、テーブルにスマホを置き、頭にフェイスタオルをかけながら、寝ている碧央の髪をかきあげて、キスをした。寝ぼけている碧央は、視界がぼやけて結愛がキスしてくれたと勘違いして、腕で顔をよせて、右耳をハムッとかんだ。首筋に愛撫する。望美は、タオルを床に置いて、碧央を抱き寄せた。


 碧央の勘違いのまま、興奮がとまらない。目をつぶっていて、顔を確認することを忘れている。望美は有頂天になって、シャワーの後の来たばかりの服を自ら脱ぎ始める。



 碧央のスマホの着信音のオープニングがバイブレーションとともに鳴り続ける。もう、碧央の耳にはもう届いていない。



 スマホ画面では『結愛』の名前が表示されていた。





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