第16話 心通じ合う
電子黒板に図式説明を表示させる教授をよそに、碧央と結愛はそっと静かに途中から入室した。一番後ろの座席でノートを広げて、何と言ってるかわからない経済学を学ぶ。内容なんて全然頭に入らない。それは、お互いの気持ちが通じ合った気がしたから。 密やかに隣同士1本1本の指を絡めて、手を繋いだ。肌のぬくもりが伝わっていく。指先のネイルがカラフルだったことに今気づいた。些細なことを見つけて、嬉しくなる。こんな近くにいるなんて信じられない。本当はずっと前からこうしたかったんだ。
教授がパソコン画面に夢中になっている間、ノートで2人の顔を隠して、暑いキスを交わした。初めて出会った時のキスとは全く違う。想像以上に柔らかい唇にお互いの熱が伝わった。優しくてあたたかい。ほんのりアロマのような匂いが漂う気分だ。やっと手にいれた宝物をめでるようにいつまでも唇を密着し続けた。2人の場所だけ異空間になり、時間がとまったようだった。
◇◇◇
「ねぇ、信じて良いんだよね」
「え? 何を?」
「……うん。そのぉ……付き合うってこと」
「俺、結愛が1番良いって会った時から思ってたから。顔も全部。体の相性も」
その言葉を聞いて、結愛は耳まで顔を赤くしてはにかんだ。そうしつつも
「一言、余計!」
結愛は碧央の頬をパチンと軽く叩く。愛のむちが嬉しかったりする。たくさんの人が行きかう大学校門で碧央は結愛を熱く抱擁した。碧央は自分から好きになった人と付き合えるのが心底嬉しすぎてぐるぐるまわった。恥ずかしさが増しつつもみなに披露されたみたいで逆に嬉しくなっている結愛だった。
大学終わりに自然の流れで2人は碧央のアパートに向かっていた。今まで一度も行ったことはない。当たり前だ。今日、初めて付き合うという儀式のようなキスをしている。まともに話すのも今日が初めてでアパートなんて行く機会もない。そんな結愛には慎重に対応していた碧央だったが、好きになられた年上彼女は平気な顔して家に連れ込んでいる。それは口が裂けても結愛には言えない。寂しさを埋めるためだなんて。
もう名前を覚えられない彼女を作るのはやめた。好きになられても断る勇気を出す。もう、本命の彼女がいると。
「あ、ごめん。髪痛いよね」
ベッドの上、事後の2人は腕枕をしながら天井を見上げると、結愛の長い髪を腕で引っ張っていた。
「ううん。大丈夫」
寝返りを打ってベッドの宮に置いていたヘアゴムでまとめる。薄暗い結愛のうなじが気になった。半分起こした体をふとんの中に引き寄せる。
「え、ちょっと待ってよ。まだ髪結んでる」
「いいから。気にしないでもう一回しよ」
「えー、ちょっと……やめっ……」
容赦はない。入院生活が長くてご無沙汰していたのもある。我慢できない。
「真愛?」
「その偽名、もう忘れて。呼ばないでよ」
「はいはい。わかりました」
何度も熱い抱擁をかわす。2人は裸のまま磁石のように離れない。愛に満ち満ちていた。最上級の幸福とはこのことを言うのかと、事を済ますとそのまま深い眠りについた。幸せな時間がそのまま夢で見られるといいのにと願いながら。
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