第24話 真実は見えてこない

 秋が深まった街路樹が広がる石畳の通路の隣に広く大きな公園があった。今日は、外に散歩に出かけようとカフェでテイクアウトしたキャラメルマキアートとベーコンとレタスのサンドイッチを持って、ベンチに座った。広場では知らない小学生たちがフリスビーで遊んでいる。その隣で老夫婦が小型犬をリードで繋いで散歩している。まったりとした時間だった。碧央は隣に結愛がいるのに何だか落ち着かない。


「碧央、食べないの?」

「……え、あー食べるよ」


 足を組んで、蓋つきドリンクカップを飲んでいた碧央は、結愛が紙袋からサンドイッチを渡して受け取った。先週の水曜日に見た名前の知らないおじさんとのドライブデートが脳裏によみがえる。聞きたくてうずうずするが、喉まで来て思いとどまった。


「何? ジロジロ見てさ。食べないなら、私食べるよ?」

「……何か、ついてる」

「え?」


 碧央は、何もついてないにも関わらず、ついてることにして、結愛の頬に指を伸ばして、垂れ下がった長い髪を耳にかけた。結愛が、ほんの少しだけ頬を淡く赤らめている。


「もう、髪くらい自分でできるよ!」

「ねぇ、先週の水曜日、どこにいたの?」

「……え?」

 

 強く風が吹きすさび、イチョウの葉が飛んできた。足元の落ち葉がカサカサとなる。木に休んでいたカラスが鳴きもせずに飛んでいく。


「どうしてそんなこと聞くの?」

「だってさ、大学の講義、休んでただろ? ラインのメッセージ、その日既読にならなかったし、なんでかなと思って……」

「うん、まぁ、出かけてたから。実家の母から呼び出されて、通院に」


 ファストフードの営業スマイルさながらに、碧央に顔を向けた。それが逆に不自然になる。

 

「俺に今からポテト売り気なの?」


 その言葉に結愛は息をのむ。碧央の前では嘘をつけないんだと確信する。

「うーん。私、碧央が好きだよ」

「突然、告白してほしいって頼んでないよ」


 真剣なまなざしで結愛を見る。こんな時に喜べない。ごまかしてるんだなと感じる。


「碧央、なんで怒ってるの?」

「怒ってないし!!」

 

 怒りながら叫ぶ。頬を大きく膨らました。バクバクとやけくそにサンドイッチを頬張る。結愛はそっと、碧央の手を握って、自分の胸の前に持っていく。


「ほら、わかるでしょ。私の心臓、ドキドキしてる。一緒にいて心臓がこんなに喜ぶのは碧央が初めてなんだ」


 碧央は、その言葉に背中に生えて飛んでいくように喜んだ。ぎゅっと結愛をハグした。


「本当だよね。信じていいの?」


 男って単純だという態度をする結愛は碧央には見せないようにした。


「うん。当たり前じゃん」

「わかった。信じるよ!」


 いい年して、子供のように結愛の対応とするとは思ってもなかった。幸せすぎて、若返ったのかもしれない。碧央はどさくさ紛れにぎゅっとハグした後、結愛の額にキスをした。

 結愛は内心、ほっとしていた。これ以上、真実をつきとめられなくて済んだと思っていたからだ。


 小学生が蹴ったサッカーボールがこちらに転がって来ると碧央はごきけんに高く遠くに蹴飛ばした。雲ひとつない空では白い飛行機が浮かんでいた。



 

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