第23話 碧央のストレス発散方法

 結愛は、純粋に碧央を彼氏として見るようになってきたはずなのに、未だにマッチングアプリを使って、パパ活をするのをきっぱりやめられない。本当は太客の生涯独身だという街中で会った坂本 敏彦さかもととしひこからのアプローチが激しい。本人は本当は結婚を意識して結愛と会ってるが、求めるものは体とお金だと解釈していた。お互いの感覚の不一致が生じている。結愛はお金をくれるからという理由で体を差し出しては愛のない関わり方を接していた。逆にそれが塩対応で受けているという複雑な関係だった。


 今日はどうしても大学の講義を休んで、会って欲しいという坂本の希望で、遠出することになった。レンタカーでドライブだったが助手席で耐えられるか不安だった。


「ねぇ。美紗紀ちゃんって源氏名あるの?」

「……え?」

「だって、この間、街中で会った時、固まってたじゃない。付き添いの人も変な顔していたし……」

「気のせいですよぉ。しかもあの人は、従兄ですから。街中で坂本さんに会うことないからびっくりしただけですって」


 営業スマイルで思ってもないことを言う結愛。レンタカーを走らせていると、路上では碧央と義春、三郎が肩を組みながら歩いてるのが見えた。ふと助手席に乗る厚化粧した結愛と目があう。さっと視線を外された。


「碧央、あれって、彼女じゃないの?」

「……他人の空似じゃねえーの」


 信じられなかった碧央は気づいていたが、知らないふりをしていた。最近結愛にあげたシルバ―リングが左手中指で光ってるのが見えた。髪をかきあげた瞬間に見た。運転する男性は街中で会ったぶくぶくと太ったサラリーマン男性だ。名前を間違って呼んでいたのを思い出す。


(なんで、結愛はあんなイケメンでもなんでもないあいつと一緒にいるんだ。俺よりも金を稼いでいるからか。本命じゃなかったのか……)


 顔に自信があっても、そばに本命の彼女がいないストレスに碧央は腕にじんましんができ始める。


「おい、碧央。どうかしたか」

「昨日食べた生牡蠣があたったかもしんねぇな。腕がめっちゃかゆい」

「ストレスたまってるんだろ、きっと」

「……本命彼女がそばにいないストレスか。いつも隣に彼女を人形のように置いてたもんな。そりゃぁ、俺らといる時間長いんじゃストレス?」

「そ、そんなことない! お前らと一緒にいていいに決まってるだろ」

「友達も大事だって、肝に銘じろ。カラオケ行くぞ!!」

「行くよ。マイク独り占めな」

「冗談よせよ。お前のおはやしなんてこりごりだ」

「順番にマイク渡すっつうーの」

 

 碧央と義春、三郎は横に並んで、駅前にあるカラオケ屋に行った。フリータイムで喉をからすほど歌ったら、嫌なことも吹っ飛んだ。たまにはこういう時間も大事だと気づき始めた。


 交差点では、1台のバイクは大きな排気音を鳴らして走り去っていった。

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