第22話 見えない恋心
碧央は、週に1回結愛と一緒にデートすることに決めた。毎日、大学に通うのは一緒だがご飯を食べたり、買い物したり、出かけるのは週に1回にしようと決めていた。まめに連絡して、メッセージを既読スルーされようと忙しいんだと自分に言い聞かせて、落ち込まないように気持ちを切り替えた。こんなにも真剣に相手と向き合ったのは初めてかもしれないと自分でも不思議に思った。碧央は授業中にも関わらず、結愛はいない講義室でスマホ画面ばかり見て、ラインや一緒に撮った写真ばかり見ていた。
「碧央、今日は彼女一緒じゃないん?」
「…………」
隣から碧央のスマホ画面をのぞきながら、鈴木義春が声をかける。そのまた隣では爆睡する大石三郎がいた。碧央は腕を組んで顔をうずめた。
「そういうときもあるんだよ。女子は……」
「ん? 何それ、倦怠期?」
「違う。慎重にしてるんだよ」
「げっ。お前、マジで言ってる? ひょいひょいとっかえひっかえしてたお前が?!」
碧央は、慌てて義春の口を手でおさえる。電子黒板を指さす教授がこちらをじっと睨んでくる。隣で寝ている三郎は見向きもしない。静かなままなら良いらしい。
「声が大きいよ、お前」
「悪い悪い」
碧央は、義春を小声で注意する。
「慎重って、待てって言われたら犬みたいに待つってことだろ?」
「わん! わんわん! ……んなわけねぇだろ。犬じゃなくて猫だよ」
「ペットじゃねぇか。変わりねぇじゃんか」
「そうじゃないけどさ。今度は嫌われたくない想いが強いんだよね。何か、こう。顔でもなくてさ、性格とかじゃなくて、このー何か内側から来る何か?」
「なにそれ。説明できんのかよ」
「……愛とか恋とかは目には見えない何かで繋がってるんだって。説明できないなぁ。まぁ、お前にはわからないか」
「いやいや、俺だって、これでも経験はあるよ。片想いだけどな」
「お? 義春もラブロマンス?!」
「お前には絶対教えないけどな!!」
「そ、そんな。親友に話せないって。いじわるだな」
「勝手に言ってろ。いつでも頭の中花畑の奴には教えないわ!」
「……綺麗に花を咲かせましょ」
電子黒板の前に立つ教授は口の前にしーっとポーズをして、こちらを睨む。義春はそれから何も言わなくなった。
碧央は離れて過ごす結愛のメッセージや写真を何度も見返していた。ここまで推しアイドルのごとく彼女を好きになるなんて自分でも信じられないくらい寒気がした。
(俺、オタク気質発動したのか!?)
背中をぼりぼり書いて、真っ白ページのノートをやっとこそ開いた。これからやる気を出して勉強しようとしたら、チャイムが鳴った。
「授業終わったぞ!!」
義春は三郎の頭をノートでたたき、三郎はハッと目を覚ました。
「ふえぇっ!?」
ぞろぞろと講義室から退室する生徒で出入り口は溢れた。
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