第15話 退院後の大学

 ―――約1ヶ月後

 

 金木犀の香りが辺り一面に広がっていた。大学の校門から玄関に入る途中にたくさんの木々でいっぱいになっていた。芝生を整えた後の香りもする。病院にずっと入院していて体がなまっていた。ひとたび動くだけで筋肉痛があちこちに出て来る。それでもここに来るのは理由があった。真面目に勉強するためだけではない。ある人に会うためだ。


 講義室に予定時刻より早めに入って待機していた碧央は、結愛の姿を見つけると、久しぶりに会って話に花を咲かせていた鈴木 義春と大石三郎をそっちのけで追いかけていく。


「おいおいおい、久々に俺らに会ったのに、女の方が良いってこと? あいつはオスだよな、マジで」

「オスの割りにあの娘には草食系対応らしいよ。珍しいよな。いつもガツガツ肉食系なのに……」

「……? へ? あいつが。嘘だろ。いつもほいほいかっこいいね碧央くんって言われてついていくあいつが。女に手出さないってか。おかしいだろ」

「案外、そっちの方が本命だったりすんじゃね?」

「……体より気持ちってこと。ほー、イケメンはいいね。ゴキブリホイホイ並みに女子が寄り付くんだから。俺にも分けてほしいよ。あーー、彼女ほしい」

「三郎も、マッチングアプリしてみればいいだろ。お互いに納得して興味とか一緒だからいいんじゃねーの」

「あれは、無理だ。体育会がダメってなったら、会った瞬間でさよなら」

「えー、それはたまたま相性の問題だと思うけど? ていうか、やったんね。マッチング」

「絶対、碧央にはいうなよ!」

「なんでよ。別にいいやん。言っても……」

「何か、ひやかされそうで嫌だ」

「繊細くんやね。さぶちゃんは」

 ノートを広げて、授業の準備をする2人だったが、碧央は全然に戻ってこない。それも珍しいことではない。


 講義室から廊下が見えた瞬間から結愛の存在に気づいた。


「結愛、大丈夫か?」


 今まで呼び捨てで呼んだことない。しばらく会ってない。でも呼んで見たかった。夢の中での妄想が広がって、結愛の存在が大きくなっていた。呼び捨てで呼ばれた結愛は目を見開いて驚いていた。あまりにもびっくりして結愛はぺたんと腰が抜けて立てなくなる。碧央を幽霊のように思えたらしい。


 碧央は同じ目線でしゃがみ、結愛の頬の涙を指で拭った。

 授業はすでに始まっていたが、さぁ行きましょうと授業を受ける状態ではなかった。少し気持ちが落ち着くまでラウンジで飲み物を飲むことにした。碧央は、結愛が好きであろうミルクティのペットボトルを差し出すと素直に受け取った。涙は落ち着いて静かに


「ありがとう」


 その言葉だけ言って、何も言わずにしばらくぼんやり2人で同じ方向向いて過ごしていた。

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