第2話 理由も考えず行動する

———石原 結愛いしはら ゆあの場合———


 都内の1Kアパートに住み始めて、約6ヶ月は経っただろうか。親の反対を押し切って上京した。体一つでここに来たというのも過言ではない。流行りのミニマリストというくらい荷物は少ない。インテリアにもそこまでこだわらない。物をごたごたと置くのが苦手なだけだ。バイトや大学の講義で忙しすぎて、部屋の中にいる時間は寝泊まりするくらいだ。食事は自炊をすることが少なく、ウーバーイーツを頼んだり、お惣菜やお弁当。食べてすぐ捨てられるようにと簡単に済ませることが多かった。冷蔵庫は飲み物が入る小さなものだけ。誰にも部屋を見られたことないが、男みたいだなと判断されてもおかしくないだろう。


 スマホのライン通知がなった。マッチングアプリを使用し始めて、引っ越しと同時に時が流れていた。使い方も慣れて、初めての人とも緊張せずに対応できていた。会うたびにお金をもらっていることは運営アプリの人には内緒のことだ。いわゆるパパ活だ。ファストフード店でのアルバイトでは生活できないと生活のために手を出した。相手もまんざらでもない感じだ。本気で恋愛をするだろうと言う人はすぐに判断して、着信拒否した。恋愛ごっこに付き合うほど、心は純粋ではない。今回もきっと、さらりとかわしてお財布が潤うだろうとそのことだけ考えていた。それをする理由なんて、考えることも嫌だ。うしろめたいくらいだ。


 渋谷駅の待ち合わせスポット。ハチ公前。ごたごたと人が集まっている中、黒いベースボールキャップをかぶった男性が足を組んで座っていた。厚底ヒールにデニムのショートパンツ、ひらひらのフリル白シャツを着た結愛はこの時だけは緊張していた。変な闇社会に連れていかれたらどうしようと多少心配する。帽子から覗く髪が銀色になっているのを見て、ドキッとする。


「……赤べこのキーホルダーですよね」


 結愛は、待ち合わせの目印に言っていた。福島名産の赤べこのキーホルダーをつけていた。


「……はい。確か、笹かまぼこのハローキティでしたよね」


 朝月碧央あさつきあおは、スマホにご当地ストラップの笹かまぼこハローキティをつけていた。


「可愛いっしょ」

 

 上に持ち上げて、ゆらゆらと見せた。結愛はマジマジと思わず見つめる。その姿に碧央はぷっと笑った。恥ずかしくなって、顔を赤くする。


「んじゃ、行きますか」

 笑ってしまったことに申し訳なく思った碧央は気持ちを切り替えて、すぐに立ち上がり、交差点に足を進めた。慌てて、結愛は後ろを着いて歩く。交際相手ではないことはわかっているが、扱いが随分と雑だなと感じてしまう。今まで会った男性の中で不思議な対応だった。

 


 車のクラクションが鳴り響く街に繰り出した。辺りは、休日ということもあり、混雑していた。


 その日が碧央と結愛の初めて会った瞬間だった。

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