第35話 からくり屋に気づかない

 不本意で好きじゃない人と一緒にいるなんて、考えもしなかった。どうして、自分はこの人と結婚するってことになったんだろう。公園のベンチに座り、ファストフードで買ったハンバーガーセットを広げて、望美と碧央は、ランチをしていた。妊娠すると、フライドポテトを食べたくなると聞いたことがある。なぜかつわり中でも関わらず、無性に食べたくなるんだと従姉に言われた。そんなもんなのかと、じっと小型犬を見つけて、追いかけてなでなでする望美を見つめる。あれから2ヶ月経つが、未だ望美のお腹は大きくならない。もともと痩せているからか。碧央は疑いもせずに食べたいものを用意するのに必死だった。時々、嘔吐する様子も見受けられる。きっと、そういうものなんだ。碧央は、どこの産婦人科に通っているのかと質問した。望美は、どこだっけと顎に指を置いて、教えてくれなかった。


「病院行くの、付き添いするよ? お腹大きくなったら歩きにくかったりするだろ?」

「ん? 大丈夫だよ。だって、産婦人科って、婦人科も標榜してるから2人そろって行ったら恥ずかしいでしょう。気にしないでよ」

「え? そういうもんなの? 先輩がそういうなら、いいけど」

「というかさ、そろそろ、先輩って呼ぶのやめようよ。夫婦になるんだし、おかしいでしょう」

 望美は、碧央の手をぎゅっと握って話す。


「それもそうだなぁ。のぞみんってあだ名でもいい?」

「……うーん、まぁ。いいよ。私は碧央って呼ぶね」

「まぁ、そのままだね」

「……大学はそのまま通うから。休まないよ。単位削られるのいやだし」

「え? だって、出産前後って仕事も1か月は休まないといけないんでしょう。大学でも休まないと体持たないんじゃ」

「私は鉄の女だから。平気!」

「て、鉄って……鉄でも限界はあるっしょ」

「とにかく、大丈夫だから。気にしないで」

「……そこまで言うなら別に……いいのかなぁ。え、結婚とか一緒に住むとかはどうするの?」

「あ……そうよねぇ。そういうのも考えないといけないわね」

(想像より何だか面倒なことが多いわね)


 望美はこめかみをポリポリとかいた。思わず、碧央とそばに一緒にいたくて、妊娠してるという嘘を塗り固めていたが、いざ、結婚の話になると想像以上にいろんなことが大変そうだなと気づく。絶縁状態の両親にも連絡しないといけないかと思うと、背中がそわそわかゆくなってくる。じんましんが出そうだった。ストレスがたまるとじんましんを出す特徴があった。


「のぞみん? どうしたん?」

 ぼりぼりと背中から腕をかきはじめる仕草が気になった。碧央は心配になって、寄り添うが、不意にバンと腕を払いのけられた。


「……いった! 大丈夫かと思って気にしたんだけど?」

「もう、大丈夫だから。うん、平気……碧央、ごめんね、1人にさせて」

 突然に不機嫌になる望美に理解ができなかった碧央は、何の役にも立たなかったのばした手をひっこめた。誰もいなくなるベンチ。一人、紙たばこをポケットから取り出して、吸い始めた。妊娠してると思って、望美の前では我慢していたが、本当はニコチンが切れてイライラし始めていた。追い打ちをかけるように望美の不機嫌な態度に不満が残る。


「ああ!!」

 天を仰ぐと、小学生が投げたボールが空中に浮かんでいる。夕日を背景に飛ぶカラスが鳴いていた。もう1日が終わった。何だかもやもやした気持ちで夜になる。思い通りにならないことばかりだと不満をこぼした。スマホに着信が入る。

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