第11話 見られたくない姿

 ランチタイムになり、ざわざわと人が集まるラウンジの自動販売機の前でスマホを見ながら、飲み物を買おうとしている結愛を見かけた。

 

 碧央はたまたま隣の席に座って声を掛けられて仲良くなった女子とともに学生食堂に向かおうとしていた。すれ違いざまに、碧央は結愛の前にある自動販売機のボタンを押した。ガコンと落ちて来たのは、ペットボトルのロイヤルミルクティーだった。お金を入れた後で、勝手にボタンをおされたことに少しイラッとした結愛だったが、商品を見て、ほっと胸をなでおろした。結愛のすきな飲み物だったからだ。振り向いて、碧央の姿を目で追いかけると、舌をぺろっと出してすぐに前に体を向けて行ってしまった。なんだかもやもやした。


碧央は込み入った話をしているわけじゃない。毎日どこかで1回は結愛に会うようにしていた。どんなにいろんな女子から話しかけろうとも、結愛に会うのは忘れないようにしていた。目が合う時もあればすれ違うだけで終わる時もある。それでいいと思っていた。肉食系の碧央にとって優しすぎる。本当に空中に浮かぶシャボン玉を壊さないように丁寧に扱った。他の女子はいつも通りに対応している。相手任せで自分の意思は伝えない。

 

 そんな中、大学の外、芝生が広がったベンチの近くで人で行き交う中パンッと音が響く。 碧央は、軽くかわしていた好きでもない女子に平手打ちで頬が叩かれた音だ。

 結愛はその姿を廊下の窓越しに見る。目が合った。なんでたたかれているのだろうとふしぎそうな顔で見ている。立ち去っていく女子を見送ってからたたれた自分の頬を撫でた。


「俺、さらにイケメンになってない?」

「なってないから……」


 結愛に近づいて、静かに問いかける。


「俺ってどう見える?」

「女たらし?」

「……ふーん、だろうな」

「反論したい?」

「合ってるようで合ってないな……」


 こんなに話すのはいつ振りだろうか。会話を長くできて心を弾ませたかったが、見られたくない姿だった。後頭部をガリガリかいて結愛の前から立ち去る。


 結愛は立ち去ろうとする碧央に手を伸ばして、声を発した。


「ねぇ、聞いていい?」

「?」


 碧央はとぼけた顔をして立ち止まる。まさか声をかけられるとは思っていなかった。ズボンのポケットに手を入れた。


「どうして、女の人に困ってないのに、マッチングアプリ何か使ったの?」


 結愛の顔を見ずに外を見て話し出す。


「俺にだって人を選ぶ権利あるだろ」


 碧央は、そう吐き捨てて行ってしまった。女性たちに囲まれる碧央の心境がぼっち生活が長い結愛には理解不能だった。どうして、大切に接することができないんだろう。適当な対応に納得できない。自分自身へ対する対応もどこかおかしいと結愛は感じていた。


 碧央は、結愛に嫌な場面を見せてしまったことに下唇をかんで悔しがった。いいところばかりを結愛を見せたいと思うのは無意識の行動からか。見せたくないところを見せたのだから穴にあったら入りたいそんな気持ちが膨れ上がる。それでも、結愛以外の女性から話しかけられても嫌われたくない一心で愛想よく対応してしまう。誰からも好かれたいって思うのは誰しもが思うだろうか。


 碧央は、ベンチに座って天をあおいだ。飛行機雲が東の空に長く続いていた。




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