第39話 真実を確かめずに返答する
「石原さん、中へどうぞ」
ここは結愛が通う産婦人科クリニック。部屋の中では、心電図の音が響いていた。胎児心拍数を測る検査室にて、 妊娠八ヶ月の妊婦が測っていた。
その隣の内診台に結愛は足を震わせて、そっと体を乗せた。だんだんと上に上がっていく。出血してる状態のまま、内診台に乗るとは思わなかった。鼓動が激しくなるのがわかる。クスコという膣鏡を金属でできた道具で産科医は結愛のお腹の中を覗く。赤ちゃんの状態を確認した。
「せ、先生。お腹の赤ちゃん……大丈夫ですか?」
「……うーん。これは緊急を要しますね。石原さん。緊急帝王切開になりますね。移動していただきますので、そのままでお待ちください」
女性産科医の五十嵐先生は、慌てた様子で看護師に説明しているのが聞こえる。結愛は病院に着いて、意識がはっきりした。救急車からおりた時からパッと目が覚める。お腹の激痛に耐え切れなくなっていた。妊娠6ヶ月とちょっと、安定期に入り、赤ちゃんの大きさはだいぶ大きくなって生まれても問題ない大きさだった。通常の出産予定日よりだいぶ早いものになる。生まれることはできるが、平均として小さめの大きさの赤ちゃんになることを医師は説明する。
待合室で手を握って座って待っていた。碧央は、診察室から出てきた看護師の佐々木と五十嵐先生から説明を受ける。説明をしてから五十嵐先生は、ふと振り返った。
「あのー、お腹の赤ちゃんのお父さんで間違いないでしょうか」
「え、あ、えー。えっと……はい!!」
碧央は、とっさに答えた。横で座っていた義春は目を大きく見開いて碧央の背中をたたく。
(いいのかよ、それで)
(いいんだよ、ここは言っておかないと)
(俺、知らねぇぞ)
(任せておけ。俺様に)
ごにょごにょと話す碧央と義春に五十嵐先生は続けて言う。
「大変申し訳ないのですが、これから緊急帝王切開に入ります。立ち合いは不可能になりますので、ご了承ください」
「いえ、大丈夫です。よろしくお願いします!!」
「最善を尽くします」
碧央は、深々とお辞儀をして手術室に入る五十嵐先生を見送った。いつの間にか、結愛の夫になってしまった碧央は急に責任感を感じた。
「俺、大丈夫かな」
「何をいまさら、言ってるんだよ。お前の子かもしれないんだろ? 楽しみだな。美人な子になりそうだな」
「な、なんで女の子ってことになってるんだよ。男の子かもしれないだろ?」
「は? 女の子いいじゃねぇか」
「いや、お前みたいな男にひっかかれても困るからな。男の子でいいよ。心配だから」
「……もう、父親気取りか?」
「何とでも言えって」
碧央は手をぎゅっと握って、手術成功を祈った。手術中の結愛は全身麻酔を打たれ、眠りについていた。
次から次へお腹から大量出血の中、輸血を行いながら、無事手術は成功していた。お腹から取り出された赤ちゃんは産声をあげることはできず、すぐに保育器の中に入った。想像以上に小さな大きさに看護師はびっくりしながら、丁重に扱っていた。
NICU(新生児集中治療室)に早急に移動する。
「先生、480gです」
「まぁ、それくらいの体重だろう。順調に育ってもらうことを祈るしかないな」
「妊娠してから6ヶ月なので、平均として500gあるといいんですよね」
「ま。、症例はそうなっているけども、生命維持というのは体重の数値がすべてじゃないから。小児科医師と看護師、この子のお母さんに頑張りに期待だね。私も全力を尽くすよ」
「ですね!」
心電図の音が病室に響いていた。呼吸器をつけられた赤ちゃんは必至で命を引き延ばしていた。結愛は麻酔から目を覚めていない。
碧央が赤ちゃんを見るのは結愛と一緒がいいと目が覚めるまで病室で待つことにしたが、ベッドの横で眠くなり、そのまま朝まで目が覚めなかった。
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