第5話 自然と目が行く先は
「石原って名前なんだ」
本名を知らない彼女はファストフードで働いていた。マッチングアプリで探して初めて好みだと思って選んだ。趣味もインドア派でゲームや映画鑑賞になっていた。待ち合わせ場所で会った。プロフィール写真もまぁまぁの好みの顔だった。会ってみると実物の方が可愛くて、写真映りが良くなかったのかと会った瞬間少し有頂天になった。
碧央は、子供向けのおもちゃつきハピネスセット注文して、じっと見つめていると、ネームプレートに≪石原≫という文字があった。会った時と名前が違う。明らかにあの時あった彼女のはずなのにと、首をかしげると、彼女はしまったと言わんばかりの顔をして、ネームプレートを手で隠した。
(ビンゴ!)
彼女の顔に指を差した。何でもない顔をして、注文した商品をトレイに並べる。
「お待たせしました。ご注文の品物はお揃いでしょうか」
「あー……」
「碧央、こっち!」
返事をしようとすると、座席に座っていた連れの大学の同級生2人は呼んでいた。高校からの付き合いがある2人だった。顔と体形が細長く、食べ物の好き嫌いが激しい
「おい、食うの早いって!」
そう言いながら、結愛のことをそっちのけにトレイを持って移動した。
「そっちが遅いんだよ。なんでハピネスセットなんか頼むんだよ。足りなくないのか?」三郎が言う。
「これが欲しくてさ。カービンのフィギィアが期間限定だろ? テレビ台のところにも飾ろうと思ってさ。ピンク色で可愛いだろ?」
「小学生かよぉ」
義春はポテトむさぼり食べていた。
「これで足りなかったら、ドーナッツでも買って帰るわ。隣に店あるだろ?」
「……まぁ、あるけどさ。自由だな、お前」
「いいだろ、別に」
「俺は、食べ物よりこのフィギィアが欲しかったの」
テーブルに小さくてかわいいピンクの恐竜フィギィアを置いて、チラリとレジの方向を見る。まだあの子はいるんだろうかと探した。
「これ、食べ終わったらさ、バッティングセンター行かね?」
「さすがは野球部員だね。俺、あんま得意じゃないけど、付き合うよ」
「文化系だもんな、義春は。碧央はどうすんの?」
「んーー、どうすっかな」
「……なんだよ。ノリ悪いな。さっきからチラチラ向こうの方見て、何かあんのか? 好きな子でもいんの?」
「べ、別に何でもねぇよ」
義春は勘が鋭く、碧央の行動をよく見ていた。結愛のことをじっと見ている姿を見逃さなかった。食べ終えた3人は、結愛を気にする碧央の腕を2人はぐいっと引っ張って、出入り口に出た。その際、ちらっと碧央と結愛は偶然にも目が合った。指2本を立てて、笑顔で合図を送ったが、無視された。
囚われた宇宙人のように2人に担がれて、碧央はバッティングセンターに行くことになった。拒否することはできなかったようだ。
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