第18話 街の雑踏

 スクランブル交差点でたくさんの人が行きかう中、ぶつかりそうになるのを必死で避けながら、進む。都会の喧騒は割と嫌いじゃない。集団の中に紛れられるから。碧央は、左腕に結愛がくっついてるのをドキドキしながら、歩いていた。ヤンキーに肩をぶつけられてもいつもなら、イライラするが、今日は気にもしない。それくらい嬉しかった。ずっと女性から好かれることはあっても、自分から好きになることは少なかった。四六時中一緒にいたいと思ったのは初対面の時から。気まぐれに始めたマッチングアプリで可愛いなっとビビッと来た結愛の写真に即座に反応した。偽名を使っているのはお互いに承知の上だったが、まさかパパ活をしているだなんて、サラリーマンの男性に話しかけるまで気づかなかった。


「あれ、美紗紀ちゃんだよね? もしかして、彼氏?」

 

 横断歩道を渡り終えると、碧央の後ろに隠れた結愛は、ぷくぷくと太った今にもワイシャツのボタンが取れそうなめがねをかけたサラリーマンの男性にジロジロと見られる。


「…………ち、違います! 」

(え、俺、彼氏じゃなかったのか?)


「そうだよね。まさか、彼氏ができたら規約違反だよ。来週の水曜日、いつもの所で待ってるからねぇ」

 結愛にとっては常連で太客。逃したら、生活費が削れる。適当にごまかそうと逃げ切ったが、碧央にはそう聞こえなかった。


「結愛、さっきの人、知ってる人??」

 立ち去った後、街路樹のベンチ付近で問いかけた。


「え、あ、全然、全然。知らない人だよ! 誰と勘違いしてるんだろうね」

「あー……。だよな。結愛には俺しか合わん」

「あーはいはいはい。そういうことにしておこう」

「え、ちょっと。どういうこと。そっけないなぁ」

 急に冷める結愛に逆に燃える碧央だった。ツンデレな性格もありだなって感じた。


「雑貨屋ってデパートの中の方があるの?」

「……もう、大丈夫」

「え? スマホリング揃えるって言ってたよね」


 歩道を歩いていると、駐輪場の奥の方でタトューを左腕に刻まれた体格のいい男性がこちらを睨んでいる。結愛はその人に気づいて反対側の方に歩き始めた。下を向いて歩いていたため、知らない人のバックに当たったり、肩にもぶつかる。さらに、勢いよく自転車を漕ぐ男性に危なく、ぶつかりそうになった。碧央は慌てて、結愛の体をつかんで、端に寄せた。


「急に、どうしたんだよ」

「人に紛れてるから大丈夫かと思った……」

「な、何の話?」

「ごめん、もう帰るね」

「ちょ、そんなこれから一緒にご飯食べようとしてたんだって」

「……そんな気分じゃない」

「そ、そんなって……わかった! 外が嫌なら、俺の家行こう」


 結愛は下を向いて、落ち込んでいる。さっきまでご機嫌だったのに、誰を見て、こんなに嫌な顔をするのか。声をかけられたあの知らないおじさんか。碧央は、いろんなことを考えて、結愛のことを心配した。


「何か美味しいもの作るからさ、一緒にいてよ」

「…………」

 致し方ないなという表情して、少し離れて歩いた。結愛は何を考えているのだろうともやもやした気持ちになる。今は、とにかく、元気になってもらおうと、自宅アパート近くのスーパーで食材の買い出しに向かった。まるで夫婦みたいだなとウキウキしながらカートを押すが、結愛はあまり喜んでいなかった。1人浮かれ気分になっていて、しゅんとなってしまう碧央だった。




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