第30話 結愛の体調不良を疑う

 チャイムの音が部屋に響く。結愛は何だかむかむかしてきて、ソファの上に横になっていた。碧央が来たと気づいているのに反応できなかった。それどころではない。スマホをテーブルに乗せて、ぼんやりと天井を見つめていた。


「お邪魔します」


 碧央が小さな声でそっと玄関のドアを開けた。これから出かけようと一度は外に出た結愛は玄関のドアを開けていた。なんで開けっ放しにするのだと、結愛に注意しようとした。


「結愛? 何、ソファに横になってるさ。これから行くのに……。てか、鍵、閉めないと不審者入って来たらどうするんだよ。俺みたいな?」


 碧央は冗談まじりで結愛が横になっているソファに近づいた。何の返答のない結愛にご不満な顔をする。


「ねぇ、一緒に行くんでしょ?」

「…………ごめん。行けない」

「なんで?」

「ちょっと具合悪い」


 顔を見えないように寝返りを打った。碧央は具合悪そうに見えない結愛にどうして機嫌が悪いだろうと感じてしまう。顔色が見えないため、元気だろうと勘違いする。


「そうやって、仮病使わないでさぁ」

「仮病じゃない!!」


 見たこともないお怒りの結愛を見て、こわくなる。鬼みたいに見えてきた。


「そっか。んじゃ、ゆっくり休んで」

「……ご、ごめん」

「ううん。平気、俺は強いから」


 とぼとぼと寂しそうな背中を見せて、玄関の方に歩く。結愛は申し訳ないことしたなと後悔したなと無理をしてでも体を起こして、碧央を追いかけた。


「あ、やっぱり元気なんじゃん」

「え、違うよ。お腹むかむかするの。碧央がそんな悲しいそうな顔するからじゃん」

「……俺、悲しいなんて思ってないよ」

「え、眉垂れ下がってるじゃん」

「寂しいの!」

「……素直だね」


 結愛は碧央の後頭部に手を組んで、体を引き寄せてハグをした。碧央は結愛の背中に手を組んだ。


「一緒に行きたかった」

「ごめんって」

「本当に具合悪い?」

「うん」

「何か買ってくる?」

「……大丈夫。横になってれば落ち着くから」

「そ?」

 

 碧央は、結愛の額に自分の額をくっつけて、体温を確かめた。

「熱はなさそう」

「……ないよ。胃の調子だもん」

「わかった。信じる」

「ありがとう」


 碧央は、ポンポンと結愛の頭を撫でた。具合が悪くても、頭を撫でられてうれしそうな顔だった。満足して碧央は、気持ちを切り替えて靴に足を入れた。


「んじゃ、俺行くわ。帰りに栄養つくもの買ってくるからしっかり休んでて」

「うん。おとなしくしておくよ」


 手をお互いにパタパタと振って、ドアがバタンとしまった。碧央がいなくなったとたん、また吐き気がした。トイレに駆け込んだ。食べ物をろくに食べてないからか、唾液ばかりが口から出てくる。


「あー……気持ち悪い。お酒飲んだわけじゃないのに酔ったみたいだなぁ」

 

 碧央は、結愛の手に触れた手をグーパーグーパーして、もう一回手をつなぎたいなと感じた。歩きながら、ポケットに入れていたスマホのバイブが鳴り続けた。3コール目に鳴った頃に通話ボタンをタップした。


「はい、碧央」


 渡ろうとする交差点の歩行者信号の音と車のクラクションが響いた。


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