第44話
――――…
「立野、これ。お前がどうしても取って来てほしいって言ってた仕事、取ってきてやったぞ」
『SとZ』という台本を楽屋のデスクに置いたのは、長内立野のマネージャーである下柳孝太郎、38歳。二児の父親であり、立野を業界に入ってからずっと支えてきた彼にとって一番お世話になっていると言っても過言ではない相手であろう。
違う台本を読んでいた手を止めて、立野はそれに釘付けになる。
「あざっす、孝太郎さん」
それを大事そうに受け取った立野は次にその台本を開いて、真剣に読み始めた。元々何に対しても真剣に取り組む彼なのだが、今回の役はかなり意気込みを入れていた。
孝太郎もその理由はよく知らなかった。聞いても『……挑戦してみたくなっただけっす』と濁すだけ。これは何か裏があるなとは踏んでいたが、深く突っ込むのはやめた。
髪の毛を真っ青に染めて、目が隠れるほどのサラサラヘアーに変身した今撮影している役はヤクザの幹部で、その中でもかなり狂っているイカれ野郎の役だった。役に入った時の立野は本当に恐ろしい。しかしそれは天性肌ではなく、努力の元で行われているのだから孝太郎も頭が上がらなかった。
全く、どれほどの努力をしているのか。台本を読み込んでいる立野を見て、親目線のように見つめていた孝太郎はそんなことを思いながら、彼に飲み物を差し入れようと控え室を出て行った。
そして、1人になった立野は誰も見ていないことを確認して、小さくガッツポーズした。どうしても勝ち取りたかった役をこの手にすることができたからだ。
彼にはこの役をどうしても勝ち取らなければならない並々ならぬ理由があった。それは……
スマホをポケットから取り出して、片手で操作する。写真のアプリを開き、フォルダー作成している中でも鍵をかけているものを開いて、立野は真顔でそれを見つめていた。
そこに写っていたのはなんと……………………Strawberry現役時代の寧々の写真だった。
そう、何を隠そう、長内立野(25)。Strawberryのリーダー寧々の大ファンである。隠れ同担拒否男であった。
あるインタビューで寧々が『「SとZ」のゼンが大好きなんですよね』と答えていたのもバッチリリサーチ済みでもし実写化するなら絶対自分がその役をすると心に誓っていた。
そのため、この喜びようである。……顔には全く出ないので、喜んでいるのかは分からないが。
―――…これで、あの男に少しでも意趣返しができる。
立野はある野望を胸に拳をぎゅっと握り締めたのだった。
「当て馬、登場です」
寧々ちゃん大好きライバル出現?
旦那様、ピンチです
芸能人の旦那様は奥様を溺愛してるらしい @mikaname1021
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