第十話「奥様はアプリゲームにハマってます」
第23話
「ただいま、寧々」
「あ、おかえり、桐鵺くん」
食事は既にスタッフの方と済ませるからお風呂も先に入っていていいという連絡があり、お言葉に甘えてお風呂を先に済ませ、私はリビングで桐鵺くんの帰りを待っていた。
―――…スマフォでゲームをやりながら。
彼が帰ってくるまでには済ませようと思っていたデイリーミッションを彼が自分が思ったより早く帰ってきたため、終えることができなかった。別に悪いことをしているわけではないので彼の前でしてもいいように思うけど、何となく仕事を終えて帰ってきた人に見せる光景ではない。
ゲームを閉じようとしたのだけど、『何してたの?』と首を傾げられ、彼はボタンを上から二つほど外しながら私の隣に腰掛けてスマフォを覗き込んできた。
「……パズルゲーム?」
「う、うん」
「ふーん」
今、どういう表情だろう?
桐鵺くんの表情を伺いながらスマフォを少しでも遠ざけようと試みるが、手を掴まれてやんわり阻まれてしまった。
何か言われるかな?
ドキドキしながら彼の返答を待っていると、桐鵺くんはにっこり笑った。
「面白そうだね」
「!」
やった!食いついてくれた!
まず百々からこのゲームが面白いと言われて始めてみたものの、忙しい彼女と語り合う時間なんてほとんどなく、専業主婦の私が語り合える友達なんてものは皆無だった。
……昔から友達を作るのは苦手で、百々と奈々以外は友達と呼べるほどの仲ではない。
だからこそ、この楽しいゲームを誰かと語り合えるこの時を待っていた。それが夫の桐鵺くんだったら、尚、嬉しい。
「そうなの!面白いの!パズルゲームではあるんだけど、ストーリーがしっかりしてて面白いんだ!ヒロインの女の子もただ守られるだけじゃなくて、自分から突進していくスタイルがすごく良くて、気づいたらずっとやっちゃってるんだよね!」
「そうなんだ。………………で、この男の子は、何?」
「あ、これはストーリーに出てくるキャラでヒロインと同じ職場の人なんだけど、すっごい爽やかで優しい人なんだよね!ちょっと意地悪な時もあるんだけど、ヒロインのことを大切にしてるのが伝わっていい人なんだぁ」
実はこのキャラクターがちょこっと贔屓で、期間限定で出てくるカードで彼がいればガチャを引いてしまうほどだ。課金まではしないと決めているので、そこまでのめり込んでいるわけではないけど、始めてやるアプリゲームの中では結構好きだった。
それに……桐鵺くんに似てるから。
見た目は全然違うけど、優しくて、ちょっとだけ意地悪で……私を大切にしてくれてる。だから、彼を始めて見た時から少し気になっていた。ちょこっと贔屓してる。
こんなこと、本人には恥ずかしくて言えないけど。
「そっか。俺もやってみようかな」
「え!本当!?やった!一緒にやろう!」
「どうやってやるの?」
「まず、アプリをインストールして……」
桐鵺くんは帰ってきたばかりだというのに、そのゲームについて聞いてくれて、その晩から早速一緒にパズルを進めた。
早速、最初の10連ガチャで私の好きなキャラを引いた時には驚いたけど、私が持っていないカードだったので羨ましがったら、いっぱいキスされた。それはもう身体中に。
……その後のことは言わずもがな。
その日の桐鵺くんは少しだけしつこかった。それと、その日は気づかなかったけど、後日、百々が私のうなじを見ながら『……うわぁ、キスマークすご』と言われた時に初めてあの時の痕をつけられたのだと気づいた。やけに後ろから求めてくるなと思っていたけど……ああ、恥ずかしい。
しばらくは何か首に巻いておこう。
…………でも、私が好きなものを桐鵺くんも一緒にやってくれるのはすごく嬉しい。やっぱり桐鵺くんは本当に優しいなぁ。
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