第6話
『君の肌を守りたい』
ドアップで出る旦那様の顔は正直言って、私のドストライクだ。
千草桐鵺。26歳。
芸能界に入って3年ほどだが、1年に満たない頃から彼は超新星として恋愛ドラマで話題になった俳優。
その時ブレイクしたドラマは年下男子がキャリアウーマンの年上女性にアタックするような話だった。多分。
覚えてない。
しかし今や彼をTVで見ない日はないのではないだろうか。
気がつけばCMで出ており、ドラマでは大体が主演。
バラエティーでも出れば、その日のSNSでは話題沸騰。
髪型は役によって変わるので定まらないけど、今は茶髪のハーフアップ。
187センチの身長は誰が並んでも大体は小さく見えてしまう。
贅肉なんて以ての外、引き締まった体は程よい筋肉で先日発売された写真集は既に完売。重版が決定されたとどこかで聞いた。
――――…何でこんな男を旦那にできたのだろう。今でも私の七不思議の一つだ。
「おーおー、寧々の旦那出てんじゃん」
TVを見てそう言ったのは、
現在は彼女自身ブランドを立ち上げて、絶賛売上大好評のトップモデル。
すらりとした体型に身長も170に近いスレンダーな彼女を羨ましいと何回思ったことか。
長めの明るい茶髪の彼女は今日はオフの日。
オフの日でもお洒落を落とさないのは、元から彼女がセンスがいいからだろう。
私が現役時代からそういう面で色々助けてもらっている。
現役時代……とは、少々自分の黒歴史とも言えるけど、これでも私は芸能人の端くれでもあったわけで。
Strawberryという名前でアイドルをやっていた。百々もその時、メンバーとして一緒に活動していた。
もう1人、
Strawberryとは今から8年ほど前から活動していて、私が結婚した1年ほど前に解散した。
私が16歳の頃からデビューしたけど、当時はそれなりに売れていた側に入っていたとは思う。
大したスキャンダルもなく、不祥事もないアイドルとしてやってはきたのだけど、結婚を境にして解散と引退したのは理由があるのだけど、まあそれはいい。
「で、旦那とはどう?」
「どうって?」
「何か悩みとかないの?セックスレスとか」
「ッセ……!?」
駄菓子をつまみながら聞いてくる話題がものすごくアレだ。
昼間からそんなことをダイレクトに聞いてくる百々が本当に……いや、彼女の性格を考えれば、慣れたものだけど。
「ふ、普通だよ。別に……」
「ふーん。大体、どれくらいの日にち間隔でセックスしてんの?」
「え!?そ、それ聞いて何か得する!?」
「うん。全私が得する」
―――…そ、そんなに。
夫婦の床事情なんて誰にも言ったことがないので、どれが基本くらいなのかも分からない。だからといって、ネットで検索すらもしたことはないけど、嘘を吐く必要もないかと思い、私は口を手で覆う。
「……にい、っい」
「ん?」
「週に5回、くらい」
「あ、毎日じゃないんだ」
「仕事で帰れないこともあるから、ね」
「…………」
「…………」
「……じゃあ、ほぼ毎日じゃん」
「……う、うん」
無言が続く。
お願い、これ以上私を追い込まないで。
やっぱりこの回数は異常なんだと百々の反応から理解できた。
手にしていた彼女の好物の煎餅を皿に置いて、こほんと一回咳をした彼女。
「まあ、世の旦那なんて意外とそんなもんかもね」
「え、そうなの?」
あれ?さっきと反応がちょっと違うような……。
違和感を感じたが、彼女がカップを持って一口珈琲を啜る姿がいかにも普通を装うので気のせいかと思い直す。
「私が会ってきた人でそういう夫婦いたしね」
「そ、そっか!いるんだ!」
じゃあ、桐鵺くんが求めてくる回数は異常ではなく、普通なんだ。
そっか、そうなんだ。
安心して、自分で淹れた珈琲を一口飲み、味わった。この珈琲、美味しいなぁ。
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