第六話「奥様は酔うと甘えたです」

第15話

「桐鵺くんって、酔うとどうなるの?」



酔った彼を見たことがないとふと思った時に、食事もお風呂も終えてリビングでまったりTVを見てる最中にそれを聞いてみた。



打ち上げやお付き合いでお酒を嗜むこともあるけれど、いつもお酒に酔わされることなく変わらない桐鵺くんにお酒が強いんだな程度に思っていた。



でも正直、自分の旦那の限界を知りたい。そして、無防備になっている桐鵺くんを見てみたい。




「気になる?」



その台詞と、意地が悪そうに笑う彼の顔が昨夜見た恋愛ドラマ「この恋は犯罪ですか?」の教師役の伊勢崎さんと重なった。



桐鵺くんとヒロインの池谷恋さんがネット上でとてもお似合いだと評判で、視聴率も右肩上がりと上々。話題性を掻っ攫っているドラマ、略して『恋罪』の魅力の一つとしてあげられるのはもちろん、桐鵺くんのハマる顔だろう。



誰にでも優しくて大人な先生が好きな生徒に見せるちょっとした意地悪な顔がとてつもなくエロチック。大人の男性というだけでも今の女子は魅力がありまくりだというのに、それがイケメンで好きな子だけに見せる顔がたまらないらしい。



―――…斯く言う、私もそうだけど。




「伊勢崎先生みたいだね、桐鵺くん」



「寧々、もしかして昨日……見たの?」



あ、そうだった。



桐鵺くんは何故か彼が出演しているドラマを私が見ることを嫌がる。特に恋愛ドラマは。



この前の刑事ドラマは『どんどん見てね』と、むしろDVD全巻を差し出されたくらいなのに。いや、あの桐鵺くんのアクションシーンは最高にかっこよかったけども。今でも暇があれば引っ張り出して見ちゃうくらい好きだけどね。



……やっぱり、そういうシーンを妻に見られるのは桐鵺くんともあろうとも恥ずかしいんだろうか?




「……えへへへ」



「あれだけ見ないでってお願いしたのに」



「だって、桐鵺くんの教師役、ハマってるんだもん。……かっこいいよ?」



「あ、そうやって誤魔化して。悪い子だなぁ」



お腹に手を回されて、グッと彼に引き寄せられた。



背中に彼の温もりを感じる。耳元から彼の息を感じて、『んっ』と声を出してしまう。くすぐったさで身を捩ると、『だーめ』と体をホールドされた。




「ねえ、見ないって約束してくれたら、俺の酔った姿、見せてあげる」



「え、本当?」



体を捩って、後ろにいる桐鵺くんを見つめる。にっこりと笑っている彼を見て、その言葉に嘘偽りはないように思えた。



少々代償は大きいけど、彼の酔った姿を見られる……それはつまり、新たな桐鵺くんの一面を知られるということで。これ以上に嬉しいことは正直言ってない。



コクコクと何度も頷く私を見て満足した桐鵺くんはゆっくりと耳を撫で、口を開く。




「でも、その代わり」



―――…その代わり?






「寧々の酔った姿を先に見たいな」



その意地悪そうな顔は、伊勢崎先生…………ううん、役柄よりももっともっと悪そうな表情で私を誘発していた。
















「きりやくーん」



「ん?どうしたの、寧々?」



「きりやくーんっ」



「なーに?」



「えへへへへ、よんだだけー!」



「そっか、そっかぁ。楽しい?」



「うん!たのしー!」



「そっか、寧々が楽しいみたいでよかった」



「きりやくーん!」



「ん?なーに?」



「だっこー!」



「ふふふ、いいよ。おいで」



―――…ああ、桐鵺くんの体温、あったかいなぁ。

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