第40話

『朱すぎて、蒼』の映画が公開され、少々話題になってから数ヶ月。事は起きた。




『数々の作品を生み出してきた井守雄三監督が女優の若宮千佳さんと不倫していたことが明らかになりました』


『どうやら関係は既に3年は経っており、井守監督と若宮さんは他にも何人とも関係をもっていたようです』



ネットでもその話題は持ちきりで『井守監督の作品好きなのに、本人まじゲスいじゃん』『若宮千佳女優人生オワタ』『業界でめっちゃビッチだって噂あったけど、マジ想像以上』『女性の敵どころか人類の敵』などなど、酷い批判の嵐。



控室でついていた不快なニュース番組を消した静雄は『……千草くん』と他人行儀に話しかけた。




「何」



「これ……君じゃ、ないよね?」



「ああ、今回は俺じゃないよ」



―――…今回は、ね。



その言葉に苦笑せざるを得ない彼だが、とりあえずこの事件を起こしたのは彼ではないということに安心して椅子に腰掛けた時だ。



「多分、霜月大先生様じゃないかな。自分の作品を汚されたってお怒りだったから」



「……え?」



控室に置いてあった雑誌を目で追いながら興味なさそうに言った彼の言葉に『まさか』と思う。



そう、そのことを霜月縁先生の耳に入れたのは紛れもなく桐鵺だった。遠い親戚にあたる霜月縁、本名は田中郎太たなかろうたは自分の作品を他人に汚されるのを最も嫌うタイプで、次に映画化される予定だった『君に愛されたい人生とは』という恋愛物。



その作品の主演俳優は桐鵺と本日とても話題になっている若宮千佳だった。こうなってしまっては降板も決定事項だろう。




「お前、まさかそれも見越して……」



静雄のその言葉ににやりと笑った彼に、背筋が凍る思いがした。




「俺の寧々ちゃんを馬鹿にした、当然の報いだよね?」



「……ア、アア、ソウダナ」



こいつだけは絶対に敵に回してはいけないと心に強く誓った、34歳池崎静雄だった。





「旦那様は暴君です」


彼の逆鱗に触れてはいけません


触れたら最後

二度と社会的に生きては帰れないので、お気をつけて

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