第十一話「旦那様は同担拒否です」

第25話

それは旦那様が大学生だった頃のお話です。








桐鵺は大学に入学してからもそれなりに有名だった。入学式の際に規格外のイケメンがいると噂され、入学式の次の日からはほぼ全てのサークルから勧誘に遭い、学食では注目の的、女子学生の間では一日一度は桐鵺の話題が上り、SNSでは彼のことでネットが荒ぶったほどだ。



しかし彼は周りから煽てられても、全く反応せず、逆に女子たちにそのクールさがたまらないと狙われ、男子学生からはやっかまれた。



―――…彼はそんなこと全くもって興味ない。



何故なら。









『ほら、早く起きて。早く起きないと……悪戯しちゃうぞ』



「はー、寧々ちゃんに悪戯されたい!!あー!!一生起きたくない!!!」



『寧々ちゃんのこの目覚ましボイス、一生聴いてたい』と悶えている姿を見て、同居している兄、亜蓮あれんはまた始まったと溜息を吐いた。



毎朝の光景なのだ。それは溜息も吐きたくなる。




「桐鵺、今日、早く大学行かないといけないって言ってなかったか?」



「兄貴、俺、最近さ…………大学には寧々ちゃんがいないから、遅刻してもいいかなって思い始めたんだよね」



「お前、んな神妙な顔してるけど、言ってることアホだからな」



亜蓮は呆れながらも、面倒見はいいので未だに寧々ちゃんボイスを聞きながら寝転がっている弟を立ち上がらせる。大学に入学してから、居座っている弟を何とか叱咤していつも大学に行かせているのは、彼の功績でもある。



千草亜蓮ちくさあれん

弟とは5歳離れ。建築業を営んでおり、小さな事務所を持っていたりする。まだ駆け出し始めのため、従業員は10名には満たないが、将来は都内で一等地の場所での建設を行うこと。弟同様、女性が群がりそうな正統派イケメンではあるが、彼自身は恋愛には興味がなく、未だ童貞である。





「兄貴、俺の夢知ってる?」



「あん?……弁護士になることか?」



桐鵺は普段ドルオタではあっても、彼が今入籍している学科は法学部。彼は顔もいいくせに頭もよく、一度見たものは大体忘れることがない特技を持っている。やっかまれるのも当然だ。



そんな彼が選んだ学科から弁護士になることは確実だろうと踏んで、亜蓮はその夢を口にしてみた。



桐鵺はくるりと亜蓮の方を向いて、にっこり笑った。







「寧々ちゃんと結婚すること」



「さっさと大学行きなさい」



誰がこの夢が遠くない未来で叶うことになることを予想できたであろうか。



兄の亜蓮は真面目な顔をしてアホみたいな夢を語る弟にまた一度溜息を吐いた。

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