第十三話「旦那様はもっと幸せです」

第30話

旦那が1ヶ月ほど休暇を貰った。



結婚してからも忙しい生活を送っていて、新婚当初から大型連休を貰っていなかったので、こんなに2人で過ごすのは初めてかもしれない。



桐鵺くんからどこか出かけようかと提案してもらったから、まったりお散歩しようという話になり、近所を歩くことになった。



夫婦でこうして目的もなく歩くことは小さな憧れだったので、ちょっと嬉しかった。桐鵺くんは有名人だし、素性がバレると後々面倒なことになるから断られるかなと思ったけど、快く承諾してくれたので良かった。




近所の大きな公園を散歩したり、出来たばかりの喫茶店で食事をしたり、小綺麗な雑貨屋さんに入って買い物したり……普通の夫婦として普通の休日を迎えられて、幸せだった。



サングラスをかけてる桐鵺くんも本当にかっこよくて、すれ違う人にはあまりバレなかったけど、喫茶店の店員や雑貨屋さんの店員には多分バレていた。騒がれなかったから良かったけど。



手を繋いで、笑い合って、時々キスして。




―――…幸せだなぁ。すっごく。















「寧々」



マンションに入り、玄関に入る。靴を脱ごうとした時に彼から名前を呼ばれて振り返ると、桐鵺くんの顔がまぢかにあって、彼のキスが唇に落ちてきた。




「……んっ、ッ」



「寧々、口を開けて」



近くにあった靴箱の方まで追い詰められ、トンっと背中に当たる。追い詰められた餌のように私は彼にロックオンされ、キスで唇を貪られる。




歯列を舐められ、上顎のあたりを舐められた時にはぞくりと体が反応した。咥内全てを舐められ、舌を絡められ、お互いの唾液が絡まっていることで脳内が沸騰している。頭が、おかしくなりそうだ。



上唇を甘噛みされた時にはピクッと体が反応してしまい、桐鵺くんの目の中の劣情が色濃くなったような気がした。



キスを交わしながら、性急に服を脱がされ、自分は器用に脱いで行く。どこに目がついているのかと疑ってしまうほど、彼は私を求めながら家の中に入っていくため、頭が追いついていかない。



気がつけば、寝室まで追い詰められ、ベッドに身投げ出した私たちは唇を絡ませながら、お互いを求め合っていた。彼の素肌に触れると、とても熱い。火傷してしまいそうなほど。




「桐鵺くん……ッ、熱い……」



「んー、そう?寧々が欲しくて、たまらないからかも」



「もう……ッ」



「だって寧々が食事をしてる姿を見てるだけで、どうかしてしまいそうだったよ」



「え?」



「君の中に、ずっと……入りたかった」



「……ッ!」



耳許で囁かれた言葉は、官能的だった。それは卑猥な言葉だというのに、身体中が悦びで叫びを上げている。



―――…もう、桐鵺くんで全てがおかしくなっているからかも。




熱くてたまらない。……いや、熱いのは私も同じかもしれない。お互いの熱をもっと感じたくて、彼の首に手を回した私は求めるようにまた唇を合わせた。




「桐鵺くん……ッ、私もあなたが、欲しいッ」



「寧々……ッ!!」



頬に唇に、顔中に。身体中に彼の赤い痕が散らばっていく様を時々彼が眺めては楽しそうだった。



首筋に、鎖骨上に、肩口に、胸元に、お臍あたりに、太腿に。



上書きされるものや新しくつけられるもの、私の体から赤い痕が消えることはない。



それに悦びを感じながら、幸せも同時に噛み締めていた。





それからどれくらい彼と体を重ねたのか、正確には覚えていない。



ただただ、重ね合う熱が愛しくて、愛しくてたまらなかった。

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