第四話「奥様は旦那様のお顔が好きです」
第10話
「俺、多分、前世で良い行いをしたんだと思うんだよね」
―――…TV局、楽屋にて桐鵺のその言葉にマネージャーの池崎静雄は顔を顰めた。
「どうした、いきなり……」
決して聞きたいわけではない。聞きたいわけではないが、ここでその言葉をスルーするわけにはいかない。静雄は分かっていた。この返答が正解であると。
担当タレントの気分を害するわけにはいかない。
……というのは建前で、ただスルーすると後が面倒くさいだけである。
しかしそんな彼の態度を都合がいいことに、待ってましたと言わんばかりに桐鵺は口火を切った。
「だって、人は何千年という時を生きている中で俺は寧々ちゃんと同じ時代に生きれて、しかも何百もある人種の中で俺は寧々と同じ国に生まれ、何十億という世界人口の中で俺は寧々ちゃんという存在に選ばれてこうして結婚して愛を育んでいるっていうの考えると前世は良い行いをしたとしか考えられないと思うんだ。いや!!きっと勇者という職業になって、世界を救っていたに違いない!!」
「お前、ストーカーのくせに何言ってんだ?」
―――…ごもっともである。
まだ犯罪紛いなことをしていないのがまだ救いであろう。
寧々と同じ事務所にこうして入社したことも彼の執着のなせる技だと言える。もちろん、それは彼の計算ではなかったにしろ、ある意味で目論んではいたはずだ。それはまたいずれ。
入社した後も何かにつけては彼女の後を追っていた。
殺人スケジュールの中で一体どこへそんな体力が残っているんだと静雄は当時、彼をある意味尊敬していたくらいだ。
「お前、奥さんのこと、相当好きだよな」
「うん!!!!!!」
最上級の天然スマイルを見た静雄は、破顔する。
千草桐鵺としてのスマイルを幾千と自分の目で見てきたが、どんなスマイルよりも一番良い顔していると思い、不覚にも嬉しくなってしまったのだった。
―――…ただ、奥さんの名前を呼ぶことだけは許して欲しい、まじで。
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