第一話「旦那様は奥様を溺愛中です」

第3話

寧々ねね



聴き心地の良い声。




「寧々」



ふわりと感じる彼の指の感触。



頬を撫でる彼の指は長くて、柔らかい。無意識に頬を寄せてしまう。



ふふふ、と頭上で柔らかい音が耳を撫でた。



まだ陽が登らない時間帯に彼がこうして私の傍で名前を呼ぶのは珍しくない。彼が出かける時間だ。



―――…起きないと、そう思うのに体が起き上がらない。




「ん……?」



「寧々、いいよ。起きないで」



ああ、彼はいつも優しい。この心地のいい声をずっと聴いていたいとも思う。



するりと頬を撫でてくれた彼はゆっくりと顔を近づけてくる気配を感じた。




「行ってくるね、寧々」



落ちてきた唇は、甘くて。気持ちがいい。



―――…いってらっしゃい、桐鵺くん。

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