第26話
―――…時刻は20時。ある居酒屋にて。
桐鵺は現在入籍している『アイドル同好会』の飲み会に来ていた。
彼が『アイドル同好会』なんてサークルに入っていることに女子学生たちは悲鳴を上げたらしいが、日が過ぎるうちに『千草くんはどうやらたくさんのサークルに誘われすぎて嫌気がさして、唯一誘われなかった全く自分には関係のない同好会に入ったのだ』と噂されるようになった。
彼女達は知らない。
千草桐鵺という男の本性を。
「Strawberryの昨日の音楽祭見た?マジ神回だったよな」
「ああ!奈々ちゃんのハートダンスがマジで昨日も輝いてた!」
「わかる!!奈々ちゃんのダンス可愛いよなー」
「百々ちゃんの脚も綺麗じゃね?」
「あの曲線がダンスに生かされるんだよなー!あと、クールな目つきがたまんねえよな!」
「Strawberryのいいところはやっぱり寧々ちゃんの絶妙な引き立てバランスの立ち位置と寧々ちゃんの癒し系ボイスと天使な歌声と寧々ちゃんのキュートで小さなお尻じゃないかな。昨日の衣装も寧々ちゃんが一番可愛かったよね!先回の苺の妖精をイメージしたふりふりな寧々ちゃんも可愛かったけど、新曲の『ブラックライフ』の悪魔をイメージした寧々ちゃんの衣装も最高にクールで可愛かった!あと、サビに入る前に寧々ちゃんがウインクしてるの気づいた?あのちょっぴりお茶目で可愛い寧々ちゃんがファンミでウインクは苦手だって言ってたのに、健気に練習して俺にウインクしてくれた時にはやっぱり寧々ちゃんは最強に可愛いなって思ったなぁ」
―――…どれが桐鵺だったのかということはお分かりいただけただろう。
分からないはずがない。
その言葉を聞いているメンバーの誰もが、苦笑い状態だ。推しに対する愛が強すぎて、自分たちの愛は霞んでいるのでないかと思ってしまうほどだった。
この同好会に入っている人間以外、この男が千草桐鵺だとは誰も信じないだろう。むしろ、メンバーの1人が『千草くんは本気のドルオタだ。頭おかしいくらい、Strawberryにイカれている』と本当に垂れ込んだにも関わらず、その噂を誰1人信じることはなかった。
熱りが覚めるまで、その垂れ込んだ男は『嘘つき』呼ばわりされたらしい。……それが真実なのに、可哀想な男である。
とにかくメンバーの間で桐鵺の推しに対する愛情は異常であり、同好会の暗黙の了解としてこのまま引き継がれることであろう。……誰に垂れ込んでも、火傷するのは自分たちだと分かっているから。
一通り桐鵺の言葉を聞いた後に部長の
「確かに昨日の寧々ちゃんのウインクは可愛か」
「は?」
「え?」
部長の顔に桐鵺の顔がこれでもかというほど、近くなる。恐ろしい表情をしている。
しかし彼はそこから顔が離せない。
「今、部長……寧々ちゃんが可愛かったとか言いやがる予定でした?そうでしたよね?ね、言いそうになりましたよね?」
「えっと……ま、まあ」
「俺の寧々ちゃんに、可愛いって?寧々ちゃんを可愛いって言っていいの、俺だけなんですけど?つか、寧々ちゃんの名前呼ぶの、やめてくれません?」
「ご、ごめんなさい」
部長の下野は体を小さくして、迫ってきている桐鵺に謝罪した。当の本人はそれを聞いて満足したようにまた『昨日の寧々ちゃんは本当に可愛かった。いや!!!!いつもだ!!寧々ちゃんはいつも可愛い!』と語り始める。
桐鵺が語る度に、メンバーは体を小さくしていく。彼の言葉を誰もが恐れているようだった。
『アイドル同好会』は今や千草桐鵺に支配されている。
『アイドル同好会』部長、
ドルオタ筆頭、様々なアイドルに愛を注いでいるが、Strawberryに熱を上げているファンの1人。現在、奈々担―――…元寧々担。
え、何故、元なのかって?
「寧々ちゃん、今日も最高に可愛い」
「「「「「………………………」」」」」
スマフォの画面を見つめてニヤついているこの男。この男こそが恐怖政治を行うこの同好会の支配者。そして、同担拒否だからです。
メンバーのほとんどが寧々担だったにも関わらず、全て担当を変えさせられました。
「旦那様は同担拒否です」
もう一度言います
旦那様は同担拒否です
覚えておいて損はありません
彼を目の前にする前に必ず復唱しましょう
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