第35話
三五
役場のひとが通神鳥っていう怪鳥になってそれをアシェラさんが式神で瞬殺。僕らはコンビニが入り口であるという月待塔という〈異界のゲート〉をくぐった。
もやもやした暗闇、進行方向にまっすぐレッドカーペットが伸びていた。長い長い、縦長の赤い絨毯だ。海外の映画賞のレッドカーペットでもこんなには長くないだろう。
この両サイドの暗闇のなかに、大きい怪鳥が何十体もひしめき合っている。その怪鳥とは、さっきアシェラさんが式神で殺した
「うぅ、いつまでこの通路は続くんですか、アシェラさん」
「このカーペットが尽きたところに今、〈二十三夜様〉と呼ばれる会議をしている部屋がある」
「塔っていうくらいだから上っていく場所なのかと」
「固定された概念はこの状況下ではあまり役に立たないのは、鈍いるるせくんにもわかってきたはずだけどねぇ」
「通神鳥たちが奇声を発してこっち凝視をしているのですがこれは?」
「いいところに気がついたね」
「襲ってこないのも逆に不思議なんですが。まるで観客みたいだ」
「僕らは招かれた客。だからレッドカーペットを今、こうして二人で歩いているんじゃないか」
「は、はぁ」
「ここには大量の通神鳥がひしめいている。ところでるるせくん。風が吹いて桶屋が儲かる、って言葉を知っているかい?」
「言葉として、くらいは」
「通神鳥は、〈掴み取り〉から来た駄洒落だ。さっきくちばしから腕が伸びてきただろう。喉から手が出る、って意味だ。それじゃなにを掴むのか。金だ。マネーを掴むのさ。どうやってかって。それは〈風邪が吹いて死体桶屋が儲かる〉ってこと。この場合は、要するに流行病の疫病でお金が儲かることが具現化されてしまった〈災異〉が通神鳥なんだよ」
「死体桶……」
「そう。通神鳥の顔は火葬場、胸は僧侶、尻尾は薬屋と対応していて、くちばしは〈刃〉だから〈焼き場〉との掛詞だよ」
「うひぃ。そんなのと戦っていたんですか」
「役場のひとが変化しただろう。役場と焼き場の掛詞になっていたんだね」
「僕だったら怖じ気づきますよ。今、とても気味が悪い。そいつらに囲まれているんですよ。こいつらによく勝てましたね、アシェラさん」
「戦闘向きじゃないとは言ったけど弱いだなんて一言も言ってないはずだけど?」
「は?」
「いや、だから僕、強いんだって。話を聞いていただろう、るるせくんが狸寝入りしていたときだったかな。園田くんに説明していたじゃないか。蘆屋アシェラは元麻布呪術機構の呪禁師で、所属は
「それ、どんな組織なんですか」
「字面通りさ。元麻布という土地にある、日本最大の呪術の機構が元麻布呪術機機構だ。その組織の一部に所属している。
僕らが歩き続けていると、金属製で錆びた大きな観音開きの扉が見えてくる。観音開きとは言わずもがな、中央から左右対称に開く両開きの扉のことである。
「通神鳥がここにひしめいているのには意味があるのですか」
「察しが悪いね。疫病でガンガンひとが亡くなっているんだよ、今、十王町と助川町では、ね。死者をこの月待塔で〈黄泉送り〉するのが、今夜の〈二十三夜様〉のイベントなんだよ。僕らはちょっとそこの〈運営委員会〉のお歴々と話し合いを試みる、という流れだ」
「黄泉送りってなんですか」
「あの世に魂でも連れて行くんだろう」
「魂とかあの世ってあるんですか」
「さぁ? 知らないねぇ」
アシェラさんと僕が会話してくれていると、観音開きに、自動的に扉が開いた。
扉の奥から、光が漏れ出し、僕らが歩いてきたレッドカーペットを照らし出す。
「乗り込むとしよう。ささっと用事を済ますよ、るるせくん」
漏れ出た逆光を浴びたアシェラさんを、僕は見る。その姿は頼もしくはあるけど、僕は世界の果てまで連れていってくれとは頼んでいないぞ。
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