第18話

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 茨城県北部、現在。パトカーの車内。僕はふと、思い出す。

「んん? 八咫烏やたがらす……? 待てよ、あの橋の欄干にいた三本脚の鴉、八咫烏じゃないか? アシェラさん! 鴉坂つばめちゃんの 秘密結社……うっ! ぐへっ、げほげほ! 痛い、刺されたおなかからまた血が出てる死ぬぅぅぅぅ!」

 はぁ、と大きなため息を吐く蘆屋アシェラさん。アシェラさんの着ている藍染めの甚平も、雨に濡れている。

「あー、もう、うるさいななぁ、るるせくん。君はいつもそうだ。いままで狸寝入りしていたのだから、宿に着くまで大人しくしていたらどうだい」

「うぅ、そうします」

 そこに園田警部。

「ところで探偵」

「園田くんも園田くんだよ。僕の父が探偵であって、僕は探偵ではないよ」

 構わず続ける園田警部。

「〈病巣摘出〉と、あなたは言いましたよね。その〈病巣〉とはなんですか。そして、それを〈摘出〉するのは、呪禁師としての蘆屋アシェラとして、ですね」

「この土地は〈疫病〉が流行っているね。その〈病巣〉は〈疱瘡神ほうそうしん〉が間違いなく深く関わっているねぇ。この土地の疫病という〈病巣〉を〈摘出〉させるには、〈疱瘡神〉を〈鎮魂〉させるしかない」

「なるほど。元麻布呪術機構は、あなたにこの土地の疱瘡神を鎮魂させるよう、指示を出したのですね」

「指示じゃなくて依頼だけれど、ね」

「〈燃え尽きた地図計画〉が、防げますね、探偵、あなたがミッションを遂行出来たのならば」

「そうなるね」

「そして裏鬼道衆。あいつらは一体」

「おっと、そろそろ頃合いだね。話はいったん中断するしかないようだよ」

「はい?」

 パトカーの運転手さんがブレーキを踏み、車が止まる。

 アシェラさんがフロントガラスを指さすので園田警部がフロントガラスの先にある、暗くなりつつある外を見る。僕も見た。

 通ってきた狭い砂利道前方に、修験道者の格好をした二人組が道を塞ぐように立っている。

 運転手さんが窓ガラスを開け、

「道を開けなさい」

 と、言う。もちろん、無反応。微動だにしない。

 園田警部が言う。

「我々も自動車を降りましょう。彼らの目的も、わたしは知らないのです。交渉です」

「もしくは戦闘……だろ。嫌だなぁ、僕は戦闘向きじゃないんだよ。ほら、るるせくんも起きて。外に出るんだ」

「おなかから血が出ているんですよぉ。ここにいさせて」

 身体を押されたので、痛い身体を我慢してパトカーのドアを開けて後部座席から僕は外に出る。出た途端、転んでしまう。その僕のおなかを踏んで、アシェラさんもパトカーの外に出た。

「うぅ、痛いですよアシェラさん。おなかに傷口があるの知ってて踏んだでしょ」

「楽しい旅行だろう? ついてきて良かったじゃないか」

「なにを言って……」

「るるせくん、君のあの、ひと夏の思い出の清算と行こうじゃないか。なぁに、ちゃんと付き合うさ。どうにもならんものがなんとかなることもある。じゃ」

 一呼吸置く蘆屋アシェラさんは僕に向けて、優しい声で言う。

「——こんな夏の話はもう終わりにしよう」



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