第5話



 春葉の正面、神社の本殿に一人、真後ろの、階段側に一人、左右に一人ずつ、男たちは殺気を放って白梅春葉に対して構えをとって、様子をうかがっている。

 殺気は相当なものだけれども、春葉は嗤っている。

「君たち、〈裏鬼道衆うらきどうしゅう〉だよねっ。春葉、知ってるよ? 春葉は通りすがりの殺人鬼。さぁ、春葉を犯したいでしょ? 食べたいなら力でねじ伏せなよ」

 挑発してから、春葉は左手に持つナイフの刀身を舌で舐めてから、クスクス嗤う。

 荒い鼻息が茂みにいる僕にも聞こえる。修験道者——裏鬼道衆たち——の漏らす鼻息だ。

 春葉は続ける。

「それとも君たち、男性の部分がふにゃふにゃ、なのかな? あははっ」

 真後ろの、階段側の裏鬼道衆が春葉に飛びかかった。手には錫杖。それを得物として。

 春葉はくるりと回転してナイフを水平に薙ぎ払う。ナイフはリーチが短い。だが、刀身が伸びたかのように、水平線上にあった灯籠が上下に真っ二つになる。

 二つある灯籠のうちのひとつが破壊され灯りも一カ所消えた。飛びかかる裏鬼道衆に躊躇いが生じたのか、動作が鈍る。春葉はそれを逃さない。

 春葉は、ナイフをもう一閃する。

 ナイフから伸びた〈見えない刀身〉の空圧が、飛びかかる裏鬼道の首を刎ねた。

 走っていた胴体はそのまま転げ落ち、鮮血が吹き出る。首から上は、口から空気が漏れてぴゅー、という鳴き声を残して地面に叩きつけられた。

 足下に来た、切断後の頭蓋を春葉は思い切り踏みつける。ぐりぐりと脚をねじるように踏みつけて、それから満面の笑顔で嗤う。

 胴体からの返り血を浴びてその白いワンピースは色が定かではなくなっている。

 残り三人の鬼道衆は、じりじりと円を描くように、構えながらその円を小さくしていく。

 顔に付いた血を舌で舐め取る春葉。

「まどろっこしいね。三人一気に襲ってきなよ」

 沈黙。男たちの荒い鼻息だけが聞こえる。

「うーん、わからないかなぁ? 君たちじゃ春葉を陵辱出来ないし、やっぱりふにゃふにゃなんじゃないかなぁ?」

 なおもじりじり回りながら機をうかがう裏鬼道三人。

 ナイフを構えていない、右手でピストルを撃つ構えをする春葉。

「これは〈仙砲せんぽう〉って言うんだ、聞いてる、るるせっ?」

 指でつくったピストルの構えの照準を右側にいる裏鬼道に合わせる。目を見開いた男は逃げようとするが、春葉は、それより速く「ばーん!」と言ってピストルを撃つ仕草をする。

 男の脳天に穴が空き、頭蓋が弾けて血と脳漿が飛び出た。身体は力を失い、その場に倒れ、男は絶命した。

「あと二匹だねっ? 春葉のこころを犯したいなら、もっと春葉を感じさせてよ、おじさんたち」



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