第20話
20
「さて、と。大きな生ゴミが出来る前に、手を打っておく必要があるね。腕が吹き飛んじゃったし、応急措置じゃそろそろ死ぬ頃合いだろう」
痛みで頭がぐるぐる回るが、僕は力を入れて、声を張り上げるように、アシェラさんと話す。
「死ぬ頃合いだろうって、他人事にも程がありますよ、アシェラさ〜ん。僕、もうダメ。本当に生ゴミになっちゃいますよぉ〜」
「しゃべれるとは余裕だね、生ゴミくん……じゃなかった、るるせくん?」
「酷い。どうやったら生ゴミとるるせで言い間違いをするんですか」
「魔方陣、ここで描いて発動させよう。あぁ、嫌だなぁ。魔方陣なんて術式使ったら、元麻布呪術機構の皆様方に僕がどこでなにをしているか自分から発信しているようなものなんだよね。まさか生ゴミ……じゃなかった、るるせくんの片腕が引き飛んで回復術式を使うだなんて、まるで僕が守らなかったからこうなったみたいじゃないか」
「実際に腕がもげるまで助けてくれなかったですよね。わざとなんじゃないか、ってくらいに」
「ふふ、やだなぁ、勘違いして欲しくないなぁ。僕はるるせくんのことが大好きだよ」
そこに園田警部。
「お二人はやはりそういうご関係で?」
僕は咄嗟に、
「ちっがーう!」
と、突っ込みを入れた。
ため息を吐いてから肩をすくめるアシェラさんが、話を進める。
「魔方陣ってチョークかなにかで魔法円をぐるっと描いて、みたいなのを想像すると思うのだけど、今回は簡略式で行くよ。実はさっき、パトカーの車内でメモパッドにカバラを使った数秘術式を書いておいた。あとは魔法円を……そうだなぁ、もげたるるせくんの腕から出る血液をぐるりと垂らして簡易的につくって、そこを魔方陣としよう」
「エグい……。エグすぎるよ、アシェラさん!」
と、思っていたら、アシェラさんの話を聞いた運転手さんがさっさと僕の取れた腕から血液を絞って砂利道の砂利の上に、いびつに円を描いていた。
そうだった、この運転手さんも警察のひとだから血液とか慣れているんだな。いや、感心している場合ではないぞ。気を抜くと倒れそう。貧血だ。
アシェラさんは笑みをこぼす。
「ショック死も失血死もしていないところはさすがるるせくんだね。偉い偉い」
そう言いながら円の真ん中にメモパッドを貼るように置く。地面にメモパッドの紙片が吸い込まれていく。
「じゃー、園田くん。そこの丸太……じゃなかった、生ゴミ……でもなかった、るるせくんを魔方陣の中に放り込んでくれたまえ」
園田警部に上半身、運転手さんに下半身を持たれ、そのまま魔方陣の中に僕は放り込まれた。
砂利の上に身体が投げ込まれ、地面に叩きつけられる。すると、ぐにゃり、と地面がゆがむ。砂利だったのに、魔方陣の中はマグマのようにうねり、液状化した。赤黒く渦巻く沼地、というか。
とにかく魔方陣は発動したらしく、僕はマグマの中に沈んでいった。
僕は残った左の方の片腕で、映画『ターミネーター2』のラストシーンのように親指を立てて沈んでいったが、せっかく機転を利かしたのにアシェラさんは、
「古いよ。いつの時代の誰が覚えてるんだい、そんなの」
と、笑いもせず侮蔑に満ちた声で僕を評した。
「これ、本当に大丈夫な……ぶくぶくぶくぶく……、なん……で? ……ぶくぶく」
「さぁ? あ、運転手さん、ちぎれた腕も放り込んで」
切断された右腕が放り込まれる。その腕も魔方陣のマグマに沈んでいく。
扱いがどこまでも雑な男、それが僕、成瀬川るるせなのだった。
そして、マグマに吸い込まれてマグマと同化していく自分を感じる。
大丈夫なの、これ?
地面と同化して。こんなのどうかしているぜ?
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